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契約自由の原則と放送法

12月6日、最高裁大法廷は放送法64条1項に定めるNHK受信契約義務付けを合憲と判断した。その趣旨は下記の通りである。 1)特定の個人や団体、国家機関から財政面で支配や影響が及ばないよう、受信設備を設置してNHKの放送を受信できる者に広く公平に負担を求めることは、国民の知る権利を充足する目的にかない合理的であり、憲法上許容される立法裁量の範囲である 2)受信契約の締結はNHKからの一方的な申し込みによって成立するものではなく、双方の合意によって成立し、設置者が受信契約の申し込みを承諾しない場合は、判決の確定によって受信契約が成立する 3)受信契約を締結した者は受信設備を設置した月から受信料を支払わなければならないとする規約は、設置者間の公平を図る上で必要かつ合理的である これらが15人の裁判官の結論である。木内道祥裁判官のみが、64条1項は判決を求める性質のものではないし、遡及適用や設備を廃止した人への適切な対応は不可能であるという反対意見を述べている。 いずれにせよ、NHKの受信契約義務付けは私法の大原則である「契約自由の原則」より優先するという判決を下したのである。 契約自由の原則...
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東芝、日産、神鋼、SUBARU

日本のモノづくりを代表する大手企業が不祥事に揺れている。それも立て続けに。 東芝は2015年4月3日、証券取引等監視委員会に届いた内部通報をきっかけに「不適切会計」を発表した。以降定時・臨時合わせて6度目の株主総会が行われた2017年10月24日に初めて「不正会計」という表現に変えて、現経営陣が株主に説明を行った。それまでの外部専門家による調査の公表内容に準じれば、早い段階で「不正会計」は明らかだ。当時の社外取締役、会計監査を担当していた新日本監査法人の責任は免れない。知っていれば大問題、知らないでいたとしても大問題。これまでずっと「不適切会計」と称してきたのは、今でも取り調べ中の3人の歴代社長への忖度であろうか。東証も東芝半導体の売却が片付いていない2017年10月11日に特設注意市場銘柄の指定解除を行った。日本を代表する企業が上場廃止となれば、その影響は市場関係者のみならず、従業員、真面目に経営をしている関連会社、その取引先と広範囲に渡る。そこへの忖度はある程度必要であろう。しかし経営トップへの忖度は全く不要。そういった社会風土・会社風土がこういった問題の再発を防げない最大の理由で...
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浄土宗・浄土真宗

私は新潟の出身で、菩提寺は新潟市内にある善導寺というお寺である。2007年に新潟市は政令指定都市になり、現住所は中央区となっているが、私が幼少の時は「西堀通」と呼ばれていたところに、その善導寺はある。さらに昔は「寺町」と呼ばれ、明治5年に「西堀」となり、名前の由来であるお堀は昭和35年に国体が開かれた時に埋め立てられて、名称も「西堀通」と改められた。昔「寺町」と呼ばれただけあって、この通り沿いにはお寺が多い。1番町から11番町まで約1500mの間に大小43の寺院が存在する。昨年ブラタモリの撮影ロケが行われて、タモリ出没に市内はざわついたと聞いている。 いっとき、身内の不幸が重なり、ここ数年善導寺を何度も訪れた。改めて宗派を確認すると善導寺は浄土宗のお寺である。子供の時に聞いた記憶があるが、いつしか浄土宗だったか浄土真宗だったか記憶が定かでなくなってしまっていた。多くの日本人は宗教意識がなく、お寺には葬儀とお盆の墓参りくらい、新年は神社、結婚式は教会でもいささかの違和感も感じない。妻とは同郷の出身であり、その実家の菩提寺も西堀通にある勝楽寺というところである。ここも近年不幸があり初めて訪...
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色覚多様性

日本遺伝学会の第89回大会において、これまで分かりにくく誤解や偏見を招きやすかった用語を改訂することが決まりました。今月中に用語集としてまとめて一般向けに発売するそうです。 高校の生物で履修する遺伝学の「優性(Dominant)」「劣性(Recessive)」という形質は、「優劣」という日本語表記からそれぞれ優れている、劣っているというイメージを与えてきました。 実際には片方の親から受け継いだだけで発現するものを「優性遺伝子」、両方の親から受け継がないと発現しないものを「劣性遺伝子」と言うのですが、字面からそれを読み取ることには困難さがありました。 同学会は、日本人類遺伝学会とも協議して見直しを進め、「優性」を「顕性」に、「劣性」を「潜性」に言い換えるということにしたそうです。新しい言い方はなじみがない分、とっつきにくいかもしれませんが、性質を正しく指し示し、誤解を生じさせない方向へいくのではないかと期待できます。 他にも「突然変異(Mutation)」の原語に「突然」という意味は元々含まれていないので、「突然」を除いて「変異」とすることや、色の見え方も人によって多様だという認識から「...
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日本人の心に脈々と流れる武士道精神

「武士道」の解説書で有名なのは、五千円札の肖像となった新渡戸稲造の書いたものであるが、これは欧米に日本文化を正しく理解してもらおうとアメリカにおいて1900年に英語で刊行されたものであり、後に和訳されたものを日本人が読むことになったものである。ゆえに本来的に武士道精神の神髄を語ったものではない。 武士の誕生は平安時代後期と言われるが、その当時は「もののふ」などと呼ばれ、幼い頃から武芸に勤しみ、いまでも行事として残る流鏑馬などの技量が秀でた侍が称賛されていました。もう一面は「一所懸命」に代表される命を懸けて領地を守る、ゆえにそこで開墾している農民から安心料としての年貢を徴収する正当性を持っていました。そして武士の名誉として、決して避けることのできない一度きりの死を、主君のために戦場で華々しく散ることが最上の美学とされました。病床にあった前田利家は関ケ原の合戦の前に「畳の上で死ぬのは無念だ」と叫んで死んでいったと言われています。 武士道を語る上で基になるのは甲州武田家の「甲陽軍鑑」です。隆盛を誇っていた武田軍が、なぜ長篠の戦(1575)で敗れたのか、それまでの来し方を見直し、あるべき武士の...
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ユーゴスラビア連邦の崩壊

ユーゴスラビアは、かつて南東ヨーロッパのバルカン半島地域に存在した、南スラブ人を主体に合同して成立した国家である。先日、クロアチア、スロヴェニア、ボスニアヘルツェゴビナを回ってきた。風光明媚な地域で観光客に人気なところであるが、四半世紀前には戦禍にまみれていたところである。 私が学生時代には「七つの国境、六つの共和国、五つの民族、四つの言語、三つの宗教、二つの文字」を持つ多様国家をチトー大統領が一つにまとめて率いた理想社会主義国家と称された。 国家の成立は1918年に遡り、セルビア王国を主体にしてスロベニア人・クロアチア人が集合し、1929年にユーゴスラビア王国に改名され、1945年からは社会主義体制を固めて、ユーゴスラビア連邦人民共和国となった。 チトーは第二次世界大戦後、コミンフォルムの設立者であるスターリンと対立し、社会主義国家でありながら、NATO陣営のギリシャやトルコとの間で集団的自衛権を明記した軍事協定バルカン三国同盟を結んで、NATOと事実上の間接的同盟国となった。 1960年代にはスターリンに代わってソ連指導者となったフルシチョフと和解し、東側からの軍事支援も得た。 そ...
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ベーシックインカム

近い将来、汎用AIや汎用ロボットの実社会への導入が進んでいき、人間の労働の大部分がそれに置き換えられることになると、その経済へのインパクトは計り知れないものになると言われています。これまでもAIやロボットの実社会への導入は進んできてはいましたが、それは特定のタスクをこなすための特化型AIであり、特化型ロボットでした。AIが将棋のプロに勝つようになったり、工場での産業ロボット導入が盛んに行われたりしていますが、基本的にそれらはひとつのタスクをこなすように設計されています。プログラミングすれば応用的な使い方はできますが、将棋AIがホテルの受付をこなすわけではありませんし、工場の溶接ロボットが介護をしてくれるわけではありません。 非営利組織「全脳アーキテクチャ・イニシアティブ」によると、汎用AIは2030年には実現の目途がたっていると想定されています。レベル4の完全自動運転が地域限定とは言え、2020年に実用化するといったNewsと合わせても、確実にかつ着実にこれまでの労働はAI・ロボットに取って代わられる時代がすぐそこまで来ています。 汎用AIや汎用ロボットのコストが人間の賃金を下回れば、...
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ベネズエラで何が起こっている?

ベネズエラは、南アメリカ北部に位置する連邦共和制社会主義国家である。北はカリブ海、大西洋に面しており、カリブ海世界の一員でもある。南アメリカ大陸でも指折りの自然の宝庫として知られており、原油埋蔵量は2977億バレルと世界一である。2000年代初め頃までは南米でも屈指の裕福な国であったが、原油価格の下落や政府の失策などにより経済状況が急速に悪化し、多くの国民が貧困に喘ぐ事態となった。2010年代に入ってからは急激なインフレが進み、市民生活は更に混乱に陥ることとなり、まさに危機的状況にあると報じられている。 なぜ、裕福だったベネズエラがこのような状況に陥ってしまったのか、大いに興味をそそられたのが、このブログを書くに至った理由である。 ベネズエラがスペインの植民地から独立を果たしたのは、1830年のことである。その後、幾度となくクーデターが発生し、軍事政権が入れ替わり立ち替わり政権運営を行ったが、いずれも長続きはせず、国民は圧政と貧困に苦しんでいた。 そんなベネズエラで油田が発見されたのは1913年のことである。1926年に石油が大の輸出品となって以来、ベネズエラの政府も国民も天の恵みであ...
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科学と生気

19世紀は生物学が近代化した時代だと言われている。それまで生命に関しては、他の物質に存在しない超自然的な力を持っているという生気論が支配的であり、基本的には古代ギリシャ時代から変らぬ伝統的意識に宗教的要素が加わり固定化していた。しかし、近世ヨーロッパにおいて18世紀にはあらゆる自然現象が神とは無関係であるという立場を取るディドロ(仏・哲学者)のような学者が現れ、生気論への反論が唯物論者から試みられるようになった。神が創造した「種」が固定的なものではなく、進化によって変化するということを機械論(生気論の反語)的に証明しようとする動きは当時「創世記」への大いなる挑戦であったと言える。 チャールズ・ダーウィンが進化論を唱えた「種の起源」は1859年に出版された。ダーウィンの説は自然淘汰説として有名である。厳しい自然環境が、生物に無目的に起きる変異(突然変異)を選別し、進化に方向性を与えるという説である。この理論は時折ビジネスの場でも引用され、環境に対応できない企業、組織、個人は生き残れないといったような使われ方をされ、一般にも定着している考え方であろう。 この説は適者生存とも呼ばれ、生物の繁...
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「良い質問」をする技術

標題は昨年ダイヤモンド社から刊行された粟津恭一郎氏の著書である。著者はエグゼクティブ・コーチングに10年以上携わっていた方で、これまでのコーチング経験を基に「『良い質問』をする技術」を書かれている。大変示唆に富む著作で、一気に読み上げてしまった。 文章のそこかしこに調達バイヤーや管理職にも活用できる点が多々あり、ご紹介したいと思う。 著者は質問を①軽い質問、②良い質問、③悪い質問、④重い質問に四類型する。 ①軽い質問は相手が答えたくなるが、気づきはない。②良い質問は答えたくなり、気づきもある。③悪い質問は答えたくもないし、気づきもない。Nagativeな気持ちだけが残り、お互い何も得るものがない最悪の質問である。④重い質問は答えたくはないが、気づきがある。 商談でも大体まずは軽い質問から入る。これは相手との関係を良くする質問で、雑談の領域に入る。相手が答えやすいこと、話していて嬉しくなるようなことを質問して話してもらう。後に展開する「良い質問」や「重い質問」の下地を作る大事な工程である。 さて、ウォームアップしたところで本題に入るわけだが、「良い質問」の最大の特徴は「本質的な」質問であ...