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代議制民主主義からの卒業

米国の人権監視団体「フリーダムハウス」がまとめた2022年の年次報告書によると、民主主義国家の数は2005年の89カ国をピークに減少傾向になり、2021年には83カ国になった一方、参政権や報道の自由などに制限を加えている専制主義国家は、2005年には45カ国だったが、2021年には56カ国にまで拡大したという。1968年に起きたチェコスロバキアでの民主化運動「プラハの春」や、2010年に中東・北アフリカ地域で起きた反政府民衆運動「アラブの春」によって独裁政権を倒した国々もあったが、その後の政情は不安定で混乱しており、民主主義を根付かせることの難しさを痛感させる。 民主主義に関しては、ウインストン・チャーチルが1947年に英国下院で行った演説が有名である。「これまでも多くの政治体制が試みられてきたし、またこれからも過ちと悲哀に満ちたこの世界中で試みられていくだろう。民主主義が完全で賢明であると見せかけることは誰にも出来ない。実際のところ、民主主義は最悪の政治形態と言うことが出来る。これまでに試みられてきた民主主義以外のあらゆる政治形態を除けば、だが。」 日本の民主主義は、明治維新後の薩長...
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ゴマ信用~抜け出しがたい階層社会の始まり~

ゴマ信用(芝麻信用)は中国アリババグループのアント・フィナンシャルサービス傘下の独立した第三者信用機関による信用調査のことである。クラウドコンピューティング、機械学習などの技術を通じて個人や企業の信用状況を客観的に反映する信用評価であり、中国においてこのスコアは社会生活を営む上で、今や重要な指標になっている。 ユーザーは自ら身分証、クレジットカード、保有不動産など個人情報をゴマ信用のアプリに入力した後、ゴマ信用はAIによってユーザーのスコアを総合的に算出する仕組みとなっている。算出されるスコアは、以下の5段階に分類される。1)350~550 「信用較差」(やや劣る)、2)550~600 「信用中等」(普通)、3)600~650 「信用良好」(やや優秀)、4)650~700 「信用優秀」(優秀)、5)700~950 「信用極好」(極めて優秀)。 筆者が初めてアメリカに赴任した時に、アメリカにおいては信用がないので、クレジットカードで買い物をして、ちゃんと期日までに支払いをして、信用データをつくるようにと指南を受けた。そもそもクレジットカードを手に入れるためには、その信用データが必要なので...
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日系人強制収容への賠償の歴史

1941年12月8日(日本時間)日本陸軍による真珠湾攻撃をきっかけに、アメリカは日独伊枢軸国と戦争状態に入った。アメリカ政府はアメリカ本土及び中南米諸国に住む、日系アメリカ人と日本人、ドイツ系アメリカ人とドイツ人、イタリア系アメリカ人とイタリア人に対して「敵性市民」として監視の目を向けることになった。その後、スパイの嫌疑をかけられた日系人数千人(最終的には約17,500人)は検挙されていたが、1942年2月19日のフランクリン・ルーズベルト大統領令9066号によって12万人の日系人が着の身着のまま(財産没収)の形で辺境10か所の強制収容所に送り込まれた。そこは住居とは言えないような急ごしらえの木造バラックで砂塵が吹き込み、冷暖房もなく、衛生管理も不十分で食中毒や下痢が多発した。同じ敵国であったドイツ系・イタリア系には一切強制収容の事実はない。 勤勉な国民性から経済的に成功している日系人への反感、アメリカの伝統に馴染もうとせず日本文化を大切にする異邦人への違和感、黄色人種であるという人種差別(黄禍論)が主な理由であろう。 日本がポツダム宣言を受諾した1945年の10月から11月にかけて強...
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不寛容社会にひと言

COVID-19第7波もようやく下火になってきて、マスクはいつ外すんだといった話題がメディアでも取り上げられるようになってきました。私自身は数か月前から余程の人込みでない限りは外ではマスクを外していますが、まだマスクをして歩いている方の方が大多数ですね。個人的には咳をする人や口角泡を飛ばす人以外はマスクしなくてもいいと当初から思っていましたが、世の中には他人のマスク未着用を激しく指摘する「マスク警察」なる人々も一部にはいました。 エリザベス女王の国葬でもマスクをしている人はほぼいませんでした。先日感染症の医師がワイドショーでその点を訊かれると「お国柄が違いますし。。」などと、およそ専門家らしからぬ発言をしていたので、びっくりしました。マスク着用の科学的根拠はどこにいっちゃたんでしょう?? 先月は伊豆箱根バスで、マスク着用を拒否した客を途中で降ろしたとしてバス会社が国土交通省中部運輸局から行政処分を受けましたが、一方的にバスの運転手を非難するのはどうなのかとも思います。運転手が他の客のことを気遣って行ったのかもしれませんし、会社からそのような指導があったのかもしれません。バス内には「マス...
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「核」「原発」アレルギー

経済産業省によると、2022年度冬季の電力不足が懸念されている。一般に安定供給に必要な予備率は3%とされ、予測では東京において1.5%程度になるのではないかと報じられている。この背景には新型コロナウイルス禍からの経済回復に伴う電力需要の増大や、ロシアに対する経済制裁措置に伴う液化天然ガス(LNG)の供給不足などが理由とされている。同時に産業界や一般家庭においての節電協力も並行して行われつつあるが、政府はよほどポイントで国民を釣れると思っているのか、基準不明な節電ポイントなる議論もされている。 資源を持たず、さらに原子力発電所を思うように再稼働できない日本のエネルギー自給率は、2019年で12.1%と経済協力開発機構(OECD)に加盟する36カ国中35位という極めて低い水準にある。ちなみに1位のノルウェーは816.7%、2位のオーストラリアは338.5%と日本から見れば羨ましいほどのエネルギー大国である。 今般、岸田首相は新たに原発7基の再稼働方針を明らかにし、次世代原子炉の開発や建設を検討することを表明した。私はこれを素直に評価したい。 日本もこれまで無策で来たわけではない。2014年...
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米中対立の狭間で揺れる日本の行方

ほぼ3年前に「日本の立ち位置」というタイトルで埋没していく日本の姿をブログで書きました。 今回はちょっと異なる観点から米中対立の狭間で日本はどう生き抜いていけばいいのか論じてみたいと思います。 アメリカのペロシ下院議長が8月3日台湾を訪問し、蔡英文総統と会談して台湾との連帯を強調しました。ペロシ議長は大統領権限を継承する順位が副大統領に次ぐ2位の要職で、アメリカの現職の下院議長が台湾を訪問するのは1997年のギングリッチ氏以来25年ぶりだそうですから、異例の訪台と言っていいでしょう。1997年当時のギングリッチ氏(共和党)は、アメリカが1979年に台湾と断交して以来、アメリカ下院議長として初めて台湾を訪れ、李登輝総統などと会談しました。ギングリッチ氏は「中国が武力によって台湾を統一しようとすれば、アメリカはあらゆる手段で台湾を防衛する」などと述べ、中国側は「内政干渉だ」として強く反発しています。25年前の再現ですから、25年間台湾をめぐる米中の対立の基本構造は変わっていないということです。今回もペロシ氏の訪台を阻止しようと、中国から事前の口撃や牽制がありましたが、それを跳ね返す形でペロ...
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出処進退

宇宙飛行士の野口聡一さん(57)が6月1日付けで、宇宙航空研究開発機構(JAXA)を退職した。野口さんは1996年に宇宙飛行士候補者に選ばれ、これまで3回宇宙に滞在。2020~21年に国際宇宙ステーション(ISS)に滞在した際の往復では、米国の新型民間宇宙船「クルードラゴン」に日本人として初めて搭乗した。ISS滞在時間は計335日17時間56分で日本人最長を記録した。退職の記者会見において野口さんは次世代に道を譲り、今後は研究機関などを中心に活動すると抱負を語った。 野口さんは立花隆氏の著書「宇宙からの帰還」に感化されて宇宙飛行士を目指したそうで、今後は宇宙体験や船外活動が人間の内面にどのような変化をもたらすかといった当事者本人が研究主体かつ研究対象となる「当事者研究」に本格的に参画し、宇宙飛行士としての新たな社会還元(障害者就労、アスリートの燃え尽き症候群対策など他分野への応用も視野)を模索しているとのことである。 たまたま目にしたHarvard Business Review2013年3月号にてThe Best-Performing CEOs in the World(世界のCEO...
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医療費の無駄

横浜から川崎に引っ越して1年になる。引っ越しして困るのは病院探しである。齢還暦を超えると体のあちこちにガタがきて、医者のご厄介になることは必定である。近所の良い病院を一から探すのは苦労するが、最近はネットで口コミも書いてあるので、参考にはなるが、見ると聞くとは大違いということも少なくない。年老いてご厄介になるのは成人病の内科クリニック、歯医者、眼医者などが代表的であろう。 引っ越しとコロナ禍を言い訳にして、3年ほど高脂血症と高尿酸症の薬をさぼっていた。毎日の薬の服用に飽きてきたこともある。「薬のやめどき」等という本も読んで勝手にやめてみたりもした。遡ること30年前に初めてのアメリカ赴任(フロリダ)から帰国して健康診断を受けたところ、赴任中の食べ放題・飲み放題がたたり、4つの指摘を受けた。それ以降、真面目・不真面目な薬の服用を繰り返し、生活習慣病と付き合ってきた。最新数値の高さにビビり、薬服用の再開を決めたところである。やはり痛風にはなりたくない。まあ、これは本人の不徳の致すところで致し方ない。話はこれからである。 病院というところはカルテを自分の所有物と思っているようで、一切コピーなど...
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ポリコレからの言葉狩り

最近は何でも言葉を短縮してしまうので、「えっ?」と聞き返したくなることが多い。耳が遠くなってきた証かも知れない。そういった言葉の一つに「ポリコレ」がある。「ポリコレ」とはPolitical Correctnessの略で「パリコレ」ではない。さらに当たり前のように「PC」とか言われてしまうとパソコンビジネスに身を置いていた私としては話の方向性を見失ってしまう。Wikipediaによると、ポリコレは「社会の特定のグループのメンバーに不快感や不利益を与えないように意図された政策または対策などを表す言葉の総称であり、人種・信条・性別などの違いによる偏見や差別を含まない中立的な表現や用語を用いることを指す。政治的妥当性とも言われる」とある。 「差別」をするべきではないという論理には大方の人が賛同するであろう。人種差別、男女差別、障碍者差別、貧困差別、職業差別など、現実社会に目を向ければ「差別」なるものは枚挙にいとまがないほどである。しかしながら、単なる「区別」が「差別」として扱われるようになると、マイナー(少数)がメジャー(多数)を食い殺す結果になりかねない。「区別」と「差別」は全く違う概念では...
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「ブルシット・ジョブ──クソどうでもいい仕事の理論」(デヴィッド・グレーバー著)

アメリカの人類学者デヴィッド・R・グレーバー氏による著書「ブルシット・ジョブ──クソどうでもいい仕事の理論」は個人的に言えば、ローレンス・J・ピーターの「ピーターの法則」(レイモンド・ハルとの共著)以来の社会学領域における名著である。残念ながらグレーバー氏は2020年9月享年59歳で亡くなってしまったが、遺作「The Dawn of Everything: A New History of Humanity」が昨年出版されている。Bullshitはアメリカにおいてはほとんど放送禁止用語扱いの言葉ではあるが、その言葉を敢えて用いることによって現代の多くの仕事がクソどうでもいい仕事になっていることを強烈に印象付けている。 18世紀半ばから19世紀にかけて起こった産業革命によって多くの肉体労働が機械化され、人間は多くの苦役から解放された。家庭内においても家事が洗濯機、掃除機、ミシン、炊飯器、電子レンジ等の家電製品によって軽減された。肉体労働に従事していた男たちは新しい職場を求め、うまく生活の基盤を作った人もいれば、転職に成功せずに暮らし向きを悪化させた人もいた。多くの時間を家事に奪われていた...