「戦争は女の顔をしていない」
標題はベラルーシの作家であり、ジャーナリストであるスヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ女史の著書である。彼女は2015年ノーベル文学賞を受賞している。彼女は表題の作品以外にも、「アフガン帰還兵の証言」でアフガニスタン侵攻に従軍した人々や家族の証言を集めたり、「チェルノブイリの祈り」では、チェルノブイリ原子力発電所事故に遭遇した人々の証言を取り上げている。 戦争とは、平和的解決が困難な国家間の諸課題を兵力を用いて闘争することである。戦場では如何に勇猛果敢な兵士と言えども、想像を絶する個人権利の蹂躙下に置かれる。戦争は勝者敗者共に永く癒えぬ物心両面の痛手を被る。近代ではベトナム戦争中のアメリカの退廃ムードはその代表例と言えよう。戦後は多くの人間が後悔の念に苛まれる行為であることは様々なルポルタージュや文学作品によって、私を含め多くの経験のない人々にも警鐘となっている。 戦場は多くが肉体的優位性を持ったマジョリティである男性の言葉で語られることが多いが、本書はアレクシエーヴィチ女史が多くの女性戦場経験者をインタビューすることによって、女性目線での戦争の内実を抉り出そうと試みている極めて稀有な作...