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「戦争は女の顔をしていない」

標題はベラルーシの作家であり、ジャーナリストであるスヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ女史の著書である。彼女は2015年ノーベル文学賞を受賞している。彼女は表題の作品以外にも、「アフガン帰還兵の証言」でアフガニスタン侵攻に従軍した人々や家族の証言を集めたり、「チェルノブイリの祈り」では、チェルノブイリ原子力発電所事故に遭遇した人々の証言を取り上げている。 戦争とは、平和的解決が困難な国家間の諸課題を兵力を用いて闘争することである。戦場では如何に勇猛果敢な兵士と言えども、想像を絶する個人権利の蹂躙下に置かれる。戦争は勝者敗者共に永く癒えぬ物心両面の痛手を被る。近代ではベトナム戦争中のアメリカの退廃ムードはその代表例と言えよう。戦後は多くの人間が後悔の念に苛まれる行為であることは様々なルポルタージュや文学作品によって、私を含め多くの経験のない人々にも警鐘となっている。 戦場は多くが肉体的優位性を持ったマジョリティである男性の言葉で語られることが多いが、本書はアレクシエーヴィチ女史が多くの女性戦場経験者をインタビューすることによって、女性目線での戦争の内実を抉り出そうと試みている極めて稀有な作...
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菅政権の実績

菅義偉総理は9月3日、次期自民党総裁選への不出馬を表明し、事実上総理を辞任することとなった。菅総理は総裁任期満了となる9月30日をもって退任し、自民党総裁選で選出された新総裁が党役員人事・組閣に着手する。10月上旬に召集される臨時国会で首相指名が行われ、新内閣が発足する運びである。その後、首相が衆院を解散するか、あるいは衆院任期満了まで待って、衆議院議員選挙が行われる。 菅首相は新型コロナのまん延で解散のタイミングを逸してしまった。起死回生の党役員再編(具体的には二階幹事長解任)もレイムダック化した菅首相に指名されて今更党役員のなり手はなく、最後は派閥を持たない菅首相の基盤の弱さを露呈する結果となった。解散権と人事権を失って「詰んでしまった」首相の哀れな姿が印象的であった。 思えば1年前に安倍前首相の病気退陣を受けて、ご本人曰く「総理になるつもりはない」と仰っていた当時の菅官房長官は急遽登板という形で総理総裁となった。その時からリリーフ総理と言われたことを思い起こせば、1年という短期で終わる菅政権は意外ではないという論評も可能であろう。 新型コロナ対策の実績を問えば、マスコミは総動員で...
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実子誘拐ビジネス

孫たちが10日間ほど遊びに来てテンヤワンヤではあったが、毎日のように成長していく姿を見るにつけ微笑ましく、先人が「子宝」と大切にしてきた気持ちに改めて共感している。先日は5歳児が保育園の送迎バスに炎天下9時間取り残され、死亡するという信じられない事件が起こった。テレビでは祖母が泣き崩れる姿が映し出されたが、両親はもとよりご親族の心痛如何ばかりかと察するに余りある痛ましい事件である。普段から運転は園長単独で行い、園に着いた時にも保育士らは全員降りたかの確認を怠っているという。園内においても点呼いわゆる欠席かどうかの確認をしていなかったという。1~2時間内に少なくともこれら確認が行われれば、園児が熱中症で死亡することは防げたのではないかと考えると無念でならない。 折しも時まさにオリンピック真っ最中である。オリンピック開催に賛否両論あったが、毎日のメダルラッシュに歓声を上げ、ややお祭り騒ぎの様相に人流が減っているとはいいがたい。オリンピック開催に際してはコロナ(デルタ株)感染拡大が心配されたが、心配通り感染者数はうなぎ上りで緊急事態宣言の効力に明らかな黄色信号が灯っている。一方でオリンピック...
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コロナにまつわるエトセトラ

記憶を遡れば2019年12月30日に原因不明の肺炎について李文亮眼科医(1月3日訓戒処分、2月7日新型コロナ肺炎で死去、3月5日政府より表彰)がWeChatに画像として投稿し、翌日WHOへ最初の報告が行われてから1年半、我々はかなり長いこと新型コロナと付き合い続けてきている。事の始まりは同年11月22日に中国湖北省武漢市で「原因不明のウイルス性肺炎」として最初の症例が確認されていたが、武漢警察が「虚偽情報」として隠蔽、武漢を都市封鎖したのは1月23日。しかし、時すでに遅し5000万人が武漢を離れて各地に散ってしまった後であった。中国全土で見れば春節時に延べ30億人の大移動が世界中を駆け巡っていた。テドロスWHO事務局長がパンデミック宣言したのは3月11日であるから、日本を含めた国連盲従国(United Nationsを国連と訳したのは、誤訳か意図的か、紛れもなく戦勝国連合が正訳)は2か月以上ウイルス入国を野放しにしてきたことになる。日本政府は変わり映えのしない国内の感染予防対策(三密回避、マスク着用、緊急事態宣言による営業自粛、リモートワーク推進など)を声高に訴え続けているが、その効果...
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中国の統治の歴史~習近平はどこへ向かうのか~

秦の始皇帝が中国全土を統一したのは紀元前221年である。中華統一を果たした始皇帝は度量衡・文字の統一、郡県制の実施など様々な改革を行った。また、匈奴などの北方騎馬民族への備えとして、それまでそれぞれの国が独自に作っていた城壁を繋げて整備し「万里の長城」に結実させた。思想的には焚書坑儒を断行し抵抗勢力の芽を徹底的に摘む政策を取った。阿房宮という壮大な宮殿の建築も行い、農民は過酷な労働に苦しみ、さらに極度の圧政まで加えられた。そのことで全国各地の不満を高めてしまい、のちの反乱を生むことになる。 統一から11年後の紀元前210年に始皇帝は死去したが、主を無くした秦では全国に反乱の火の手が上がり、秦は紀元前206年に滅亡する。のちに前漢初代皇帝に就くかの有名な劉邦に降伏した秦は実はたった15年の治世で終わりを告げてしまったのである。 秦は周から王朝を奪取して成立したが、周、とくに前半の西周は儒教において理想的な時代とされている。周の政治制度は、周王が一族や功臣、地方の有力な土豪を諸侯と任じ、一定の土地と人民の支配権を与え、統治した封建制である。周王と諸侯、諸侯とその家臣である卿大夫は、擬制的な...
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コロナ禍に想う~時間の束縛から解放へ~

私は8年前にサラリーマンを卒業したので、通勤(痛勤)の毎日からはだいぶ遠ざかっている。コロナ禍も丸一年を超えて二年目に突入して漸くワクチン接種が始まったところに、今度は変異株の猛威で東京オリンピック・パラリンピックの開催に赤信号が灯っている。勤め人の多くは在宅勤務やリモートワークに切り替わり、私の知人は今年5回しか会社に行っていないと言っていた。毎日定時の通勤が当たり前だった現代社会において、外出禁止令にも近い緊急事態宣言発令下で改めて「出社」とは何だったのだろうかと思いを巡らす人も少なくないのではないか。会社に居れば仕事をしたことになるといった楽天家はその存在が危うくなっているだろう。時間は全ての人に平等に与えられている(難病を抱えた方は別として)。金持ちは1日100時間を手に入れられるということにはならない。 懐中時計は1700年代に王侯貴族など上流階級の人々が使い始めたようであるが、腕時計の開発や量産が始まったのは19世紀後半になってからである。きっかけは戦争で、砲撃などの作戦を間断なく実行するために兵士は迅速に正確な時刻を知る必要があり、トレンチコートの中に入れている懐中時計で...
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超限戦~戦争は既に始まっている~

皆さんは「超限戦」という言葉を聞かれたことがあるだろうか。英語ではUnrestricted Warfareと略され、軍事は勿論のこと、経済や文化も含めて全てを例外なく総合的に利用して相手を打ち負かしていく戦術のことである。1999年に刊行された「超限戦」(喬良・王湘穂著)では「ハイブリッド戦」と訳されているが、現代において軍事的な攻撃は兵器の高度化と大衆世論の台頭によって、その使用は非常に限定されるようになってきた。それ自体は喜ばしいことであるが、それゆえ他方で非軍事的な活動のウェイトが過去の戦争に比べて圧倒的に大きくなってきている。 最近の例を挙げれば、ロシアのアメリカ大統領選挙への介入である。このことは米国家情報長官室(ODNI)による報告書「最近の米国選挙におけるロシアの活動と意図に関する評価(2017年1月)」および米司法省モラー特別検察官の調査報告書(2019年3月)によって、2016年米大統領選挙におけるロシア政府の大規模かつ組織的な介入が認められている。具体的にはロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)によるサイバー攻撃によって、米政党・大統領候補者関係者ら300名超にフィ...
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ユーゴスラビア

今の若い人の中にはユーゴスラビアという国があったことを知らない人もいるだろう。ユーゴスラビアはバルカン半島地域に存在した社会主義国家である。ユーゴスラビアとは「南スラブ人の土地」を意味し、国名として「ユーゴスラビア」を名乗っていたのは1929年から2003年までの期間である。第二次世界大戦前は王国であったが、大戦後はパルチザン(共産主義主体の勢力)を率いるティトーが社会主義を標榜し連邦共和国を樹立した。この社会主義国家を率いていたティトーが1980年死去すると、各共和国は分離独立を主張し、さらには民族間の軋轢による内部分裂を起こし、ほどなく紛争・民族独立・崩壊への歴史を進めることとなる。 私が学生時代には「七つの国境、六つの共和国、五つの民族、四つの言語、三つの宗教、二つの文字、一つの国家」をティトー(私はチトーと習った)のカリスマ性とバランス感覚によって平和裏に統治してきた社会主義国家のひとつの見本として認識されていた。 「七つの国境」とはイタリア、オーストリア、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリア、ギリシャ、アルバニアである。1941年ヒトラー率いるドイツと同盟を結んだイタリア、ハン...
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魚は誰のものか

子供のころ食卓には魚が並ぶことが多かった。新潟の海っぺりに住んでいたので、新鮮な海産物が安く手に入ったことが理由であろうが、私は子供のころ魚はあまり好きではなかった。煮たカレイや糸こんにゃくとタラの親子煮などが記憶に残っているが、子供のころは肉の方が食べたかった。一口に肉といっても給食に出るような肉は脂身の多い豚肉の細切れが多く、残すとダメということで飲み込むように食べていた悪夢が蘇る。すき焼きもたまに食卓に出たが、何の肉だったのか記憶は定かではない。自分で稼ぐようになってからは、稼ぎに応じて舌でとろけるような牛肉やジビエ等も食べることができるようになったが、50も半ばを超えるようになるとサシの入った霜降りより赤身の方を好むようになった。そして、今はもっぱら魚を好むようになり、子供のころ苦手だった煮魚やシンプルに塩だけで焼いた焼き魚が好物となっている。昔、安価に手に入ったであろう魚類は世界、特に中国の需要増に伴い価格が上昇し、かつて庶民の味方と言われていたサンマやイワシなども手が届かなくなり、せいぜい冷凍可能な干物が食卓にあがる程度の時代になってしまった(サンマの値段は30年前の2倍)...
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言論の自由と事実の確証

トランプ氏は史上初めてSNSをフル活用した大統領として名前を残すだろう。大統領に就任する前からTwitterを選挙戦のツールとして使いこなして大統領の座を射止め、その後も休むことなくSNSによる発信を行ってきた。2017年1月20日就任後の半年間の月平均つぶやき回数は136回。その後も数字を伸ばし続け、選挙戦只中の20年9月には722回に達し、なんと1時間に1回はつぶやいた計算になる。政敵のバイデン氏を「Sleepy Joe」などと貶めたりする投稿に眉をしかめる向きもあり、アメリカ民主主義の質低下と分断を煽ったことに違いはない。 大統領選挙の選挙人集計結果を承認するための上下両院合同会議が始まる21年1月6日、民主主義国家の旗手とも言える米国で議事堂突入という目を疑わんばかりの事態が発生した。トランプ氏は選挙敗北後もSNSで執拗に選挙の不正を訴え続け、当日は支持者に「我々は敗北を認めない。ここから議事堂まで行進せよ」とホワイトハウス前に集まった数千人の支持者を煽ったことが前代未聞の事態に至った理由であることは疑いない。 Twitterはトランプ氏が今後も暴力行為を扇動する可能性があるこ...