ブログ

格差拡大と民主主義

富の偏在性を見る指標にジニ係数がある。ローレンツ曲線をもとに、1936年にイタリアの統計学者コッラド・ジニによって考案されたものである。それによると日本は1981年0.349から一貫して上昇し、2014年0.570まで上がっている。ジニ係数とは、1人が全ての所得を独占した場合は1。完全平等社会であれば0となる。一般にジニ係数の社会騒乱多発の警戒ラインは0.4とされており、これを理由に日本は格差社会だと喧伝する向きもあるが、それは正しくない。日本は資本主義国家の中でも社会主義的な国家運営をしており、かなりの所得再配分が行われている。再配分所得によるジニ係数は1981年0.314、2014年0.376と前述の0.4を下回っており、自由経済の結果による偏在を政策によって是正してきているのである。OECD加盟国30ヶ国中、日本は貧困率がメキシコ、トルコ、アメリカに次ぐ4番目に高いというデータも持ち出されるが、再配分前の相対貧困率の比較であり、必ずしも生活実態を反映しているものとは言いがたい。ちなみに新興国の貧困率は1日1.25ドル未満という絶対貧困率で表しており、相対貧困率とは全く異質のもので...
ブログ

トヨタの強み

かんばん方式などの「トヨタ生産方式(TPS)」を体系化した大野耐一氏や鈴村喜久男氏から直接の薫陶を受けた林南八氏(トヨタ自動車顧問)の話を聞く機会を得た。トヨタ生産方式を語った本は数多あるが、トヨタの強さの神髄は上司が部下を不断の改善に駆り立てる鍛錬道場であると言えるのではないか。 この上司にはいい加減な報告はできないと感じさせること。上司自身も現場確認しているし、自分の頭で考えている、そして部下に質問したり、ヒントを与えたりしている。職場自体がこの鍛錬の場となっていることが最大の強みであると感じた。 以下、私が印象に残った林氏の講演の一部を私自身の感想を含めて箇条書きでご紹介したい。 1)TPSとは、原価低減と人材育成の仕組みに他ならない。自分自身(上司)がチャレンジしていますか? 部下にチャレンジさせていますか? 原価低減を目的として、その過程を人材育成に充てている意識は忘れがち。原価低減目標達成ばかりに目が行きがち。 2)滞留を無くしていくと、課題が出てくる。分岐・段取・不安定な工程・物流において、新たな滞留が発生するので、それを解決していく繰り返し。生産現場はモノの滞留を減らす...
ブログ

憲法改正を阻むものは何か

前回に引き続いて日本の安全保障について書きたい。なぜならどのような私的公的活動を行うにしても人は国家の基盤がなければ、何一つ立ち行かない存在だからである。ビジネスも日本の会社ということで大いに信用されうる下地を得ていよう。個人で海外旅行をしますといっても日本国発行のパスポートがあればこそ、世界中ほとんど国を旅することができる。闇市場で日本国パスポートが高値(20~100万円?)で売買される所以である(ICチップの埋め込みによって昨今は取引は困難になってきていると言われる)。 現日本国憲法は1947年5月3日に施行された。今でも5月3日は憲法記念日の祝日である。ゴールデン・ウィークの陰に隠れてしまい、改めて「現行憲法」とは何か、大丈夫なのかと問う人は少数かもしれない。しかし、今年は憲法改正の発議が行われるであろう重要な年である。 教科書で全ての日本国民が習ったであろう、日本国憲法を特徴付ける三大要素とは「国民主権」「基本的人権の尊重」「平和主義」の3つである。 日本は1945年8月14日にポツダム宣言を受諾してから、1952年4月28日にサンフランシスコ講和条約が発効するまでの7年間弱、...
ブログ

ヘルムート・シュミット(西ドイツ第5代首相)

ヘルムート・シュミットは、西ドイツの政治家で、第5代連邦首相(在任:1974年 - 1982年)を務めた人物である。首相退任後の1983年からは『ディー・ツァイト』紙の共同編集者を務める言論人・文化人として政治的発言を続けた。なぜ、新年早々この人物のブログを書こうと思ったかと言えば、当時の西ドイツの置かれた状況が、今の日本のそれに酷似しているからである。 第二次世界大戦敗戦後の西ドイツはアメリカの後押しを受けて、1949年ドイツ連邦共和国としてNATOに加盟するという条件付きで主権を回復した。アメリカと西ドイツはソ連に対抗するという共通の目的のもと、互いに協力していくことが合意され、1950年代には大量のアメリカ軍がヨーロッパに配置されることとなる。 1961年アメリカ民主党のジョン・F・ケネディが第35代アメリカ合衆国大統領に就任すると、アメリカはベトナム戦争にその関心の重心を移していったが、1960年代に入ってもアメリカと西ドイツの関係は良好に推移していた。1968年に第37代アメリカ大統領に就任したリチャード・ニクソンは、泥沼化していったベトナム戦争からの撤退を模索していた。その...
ブログ

契約自由の原則と放送法

12月6日、最高裁大法廷は放送法64条1項に定めるNHK受信契約義務付けを合憲と判断した。その趣旨は下記の通りである。 1)特定の個人や団体、国家機関から財政面で支配や影響が及ばないよう、受信設備を設置してNHKの放送を受信できる者に広く公平に負担を求めることは、国民の知る権利を充足する目的にかない合理的であり、憲法上許容される立法裁量の範囲である 2)受信契約の締結はNHKからの一方的な申し込みによって成立するものではなく、双方の合意によって成立し、設置者が受信契約の申し込みを承諾しない場合は、判決の確定によって受信契約が成立する 3)受信契約を締結した者は受信設備を設置した月から受信料を支払わなければならないとする規約は、設置者間の公平を図る上で必要かつ合理的である これらが15人の裁判官の結論である。木内道祥裁判官のみが、64条1項は判決を求める性質のものではないし、遡及適用や設備を廃止した人への適切な対応は不可能であるという反対意見を述べている。 いずれにせよ、NHKの受信契約義務付けは私法の大原則である「契約自由の原則」より優先するという判決を下したのである。 契約自由の原則...
ブログ

東芝、日産、神鋼、SUBARU

日本のモノづくりを代表する大手企業が不祥事に揺れている。それも立て続けに。 東芝は2015年4月3日、証券取引等監視委員会に届いた内部通報をきっかけに「不適切会計」を発表した。以降定時・臨時合わせて6度目の株主総会が行われた2017年10月24日に初めて「不正会計」という表現に変えて、現経営陣が株主に説明を行った。それまでの外部専門家による調査の公表内容に準じれば、早い段階で「不正会計」は明らかだ。当時の社外取締役、会計監査を担当していた新日本監査法人の責任は免れない。知っていれば大問題、知らないでいたとしても大問題。これまでずっと「不適切会計」と称してきたのは、今でも取り調べ中の3人の歴代社長への忖度であろうか。東証も東芝半導体の売却が片付いていない2017年10月11日に特設注意市場銘柄の指定解除を行った。日本を代表する企業が上場廃止となれば、その影響は市場関係者のみならず、従業員、真面目に経営をしている関連会社、その取引先と広範囲に渡る。そこへの忖度はある程度必要であろう。しかし経営トップへの忖度は全く不要。そういった社会風土・会社風土がこういった問題の再発を防げない最大の理由で...
ブログ

浄土宗・浄土真宗

私は新潟の出身で、菩提寺は新潟市内にある善導寺というお寺である。2007年に新潟市は政令指定都市になり、現住所は中央区となっているが、私が幼少の時は「西堀通」と呼ばれていたところに、その善導寺はある。さらに昔は「寺町」と呼ばれ、明治5年に「西堀」となり、名前の由来であるお堀は昭和35年に国体が開かれた時に埋め立てられて、名称も「西堀通」と改められた。昔「寺町」と呼ばれただけあって、この通り沿いにはお寺が多い。1番町から11番町まで約1500mの間に大小43の寺院が存在する。昨年ブラタモリの撮影ロケが行われて、タモリ出没に市内はざわついたと聞いている。 いっとき、身内の不幸が重なり、ここ数年善導寺を何度も訪れた。改めて宗派を確認すると善導寺は浄土宗のお寺である。子供の時に聞いた記憶があるが、いつしか浄土宗だったか浄土真宗だったか記憶が定かでなくなってしまっていた。多くの日本人は宗教意識がなく、お寺には葬儀とお盆の墓参りくらい、新年は神社、結婚式は教会でもいささかの違和感も感じない。妻とは同郷の出身であり、その実家の菩提寺も西堀通にある勝楽寺というところである。ここも近年不幸があり初めて訪...
ブログ

色覚多様性

日本遺伝学会の第89回大会において、これまで分かりにくく誤解や偏見を招きやすかった用語を改訂することが決まりました。今月中に用語集としてまとめて一般向けに発売するそうです。 高校の生物で履修する遺伝学の「優性(Dominant)」「劣性(Recessive)」という形質は、「優劣」という日本語表記からそれぞれ優れている、劣っているというイメージを与えてきました。 実際には片方の親から受け継いだだけで発現するものを「優性遺伝子」、両方の親から受け継がないと発現しないものを「劣性遺伝子」と言うのですが、字面からそれを読み取ることには困難さがありました。 同学会は、日本人類遺伝学会とも協議して見直しを進め、「優性」を「顕性」に、「劣性」を「潜性」に言い換えるということにしたそうです。新しい言い方はなじみがない分、とっつきにくいかもしれませんが、性質を正しく指し示し、誤解を生じさせない方向へいくのではないかと期待できます。 他にも「突然変異(Mutation)」の原語に「突然」という意味は元々含まれていないので、「突然」を除いて「変異」とすることや、色の見え方も人によって多様だという認識から「...
ブログ

日本人の心に脈々と流れる武士道精神

「武士道」の解説書で有名なのは、五千円札の肖像となった新渡戸稲造の書いたものであるが、これは欧米に日本文化を正しく理解してもらおうとアメリカにおいて1900年に英語で刊行されたものであり、後に和訳されたものを日本人が読むことになったものである。ゆえに本来的に武士道精神の神髄を語ったものではない。 武士の誕生は平安時代後期と言われるが、その当時は「もののふ」などと呼ばれ、幼い頃から武芸に勤しみ、いまでも行事として残る流鏑馬などの技量が秀でた侍が称賛されていました。もう一面は「一所懸命」に代表される命を懸けて領地を守る、ゆえにそこで開墾している農民から安心料としての年貢を徴収する正当性を持っていました。そして武士の名誉として、決して避けることのできない一度きりの死を、主君のために戦場で華々しく散ることが最上の美学とされました。病床にあった前田利家は関ケ原の合戦の前に「畳の上で死ぬのは無念だ」と叫んで死んでいったと言われています。 武士道を語る上で基になるのは甲州武田家の「甲陽軍鑑」です。隆盛を誇っていた武田軍が、なぜ長篠の戦(1575)で敗れたのか、それまでの来し方を見直し、あるべき武士の...
ブログ

ユーゴスラビア連邦の崩壊

ユーゴスラビアは、かつて南東ヨーロッパのバルカン半島地域に存在した、南スラブ人を主体に合同して成立した国家である。先日、クロアチア、スロヴェニア、ボスニアヘルツェゴビナを回ってきた。風光明媚な地域で観光客に人気なところであるが、四半世紀前には戦禍にまみれていたところである。 私が学生時代には「七つの国境、六つの共和国、五つの民族、四つの言語、三つの宗教、二つの文字」を持つ多様国家をチトー大統領が一つにまとめて率いた理想社会主義国家と称された。 国家の成立は1918年に遡り、セルビア王国を主体にしてスロベニア人・クロアチア人が集合し、1929年にユーゴスラビア王国に改名され、1945年からは社会主義体制を固めて、ユーゴスラビア連邦人民共和国となった。 チトーは第二次世界大戦後、コミンフォルムの設立者であるスターリンと対立し、社会主義国家でありながら、NATO陣営のギリシャやトルコとの間で集団的自衛権を明記した軍事協定バルカン三国同盟を結んで、NATOと事実上の間接的同盟国となった。 1960年代にはスターリンに代わってソ連指導者となったフルシチョフと和解し、東側からの軍事支援も得た。 そ...