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気概の精神

鮮明に記憶している小説のセリフがある。「お上の事には間違はございますまいから」。1915年に発表された森鴎外の「最後の一句」の娘いちの言葉である。中学校の教材として学んだものと思う。 話のあらすじはこうである。船乗り業の主人太郎兵衛は、知人の不正を被る形で死罪とされてしまった。悲嘆にくれる家族の中で、長女のいちは父の無罪を信じ、奉行佐々又四郎に助命の願書を出し、父の代わりに自身と兄弟たちを死罪にするよう、単身申し立てる。16歳の娘の大胆な行為に背後関係を疑った奉行は、女房と子供たち4人を白洲に呼び寄せ、責め道具を並べ立てた上で白状させようとする。 白州で、いちは祖母から事情を聞き父の無罪を確信したこと、自身を殺して父を助けてほしいことを理路整然と訴える。佐々が拷問をほのめかして「お前の願いを聞いて父を許せば、お前たちは殺される。父の顔を見なくなるがよいか」との問いに、いちは冷静に「よろしゅうございます」と答える。そして「お上の事には間違はございますまいから」と付け加える。この反抗の念を込めたと思われる娘の最後の一句は役人たちを驚かせるが、同時に娘の孝心にも感じ入ることになる。そして太郎...
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世界の潮流と労働分配率の低下

「2017 エデルマン・トラストバロメーター」なる記事を目にした。第17回とあるので、2001年から始まったものと推測する。調査対象は世界28か国、知識層(各国の同世代と比較して、世帯収入が上位25%、メディアに日常的に触れ、ビジネスに関するニュースに関心を持っている層)と一般層に分けてデータ分析を行っている。 日本人の特徴は、「昨年に引き続き、将来に対して最も悲観的な国民」であること。自分と家族の経済的な見通しについて、5年後の状況が良くなっていると答えた割合は、知識層で31%、一般層で17%と28か国中最低である。知識層と一般層の差14ポイントは昨年の4ポイントより大幅に拡大している。もっとも知識層の楽観的割合が19%から31%に上昇している半面、一般層では15%から17%と僅かしか上昇していないので、世界的に言われているいわゆる二極化の表れと言えそうだ。日本人は悲観的なゆえに、将来に備え貯蓄をしたり、社会変化に対応すべくスキルを磨いたりしながら、知恵を絞ってオイルショックや構造不況を乗り越えてきた。 楽観的な国としてはインドネシアが1位(9割ほど)、インドが3位。これらの国はこれ...
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鴻海のTV戦略とパネル戦略

昨年末の報道であるが、(台湾)鴻海・シャープが共同運営する堺ディスプレイプロダクト(SDP)が(韓国)サムスンに対して、2017年中に取引を中断する意向を伝えた。サムスンは全取引のうちの11%に当たる年間500万台分の液晶パネルをSDP及びシャープから調達していたと言われるが、調達する側も、供給する側も大きな変化があったことは間違いない。表向きは価格交渉で折り合いがつかなかったという理由になっているが、取引を中断するというのは、鴻海サイドの供給方針の転換によることが大きかったであろうことは予想できる。 通常、販売側はなるべく供給先を多様に確保しておきたいものである。価格などの諸条件に加えて、今後の成長性やビジネスのベクトル合致度によって数量拡大したり、取引を縮小したりという戦術を打つのが通例である。取引中断というのは個別の条件闘争の結果で発生するようなことではない。本件は条件が合わなかったというより、供給方針を優先した結果であろうと思う。後日の報道でサムスンは、「突然の通告により、2016年末で供給はストップした」と発言している。サムスンは本件に対して、年末12月22日に仲介商社の黒田...
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イスタンブール(トルコ)で想う

トルコ共和国の首都イスタンブールはエキゾチックで魅力的な街である。1978年に庄野真代の楽曲で「飛んでイスタンブール」が大ヒットした。その頃は単に異国の地というイメージだけであったが、50歳を過ぎるころから、最も訪れてみたい場所になっていた。地理的には西にヨーロッパが拡がり、東にはアジアが拡がる。その間を隔てるのがボスポラス海峡。海峡の南はマルマラ海、北が黒海で天然の港を擁している。まさに東西の十字路であり、ユーラシア大陸とヨーロッパ大陸のつなぎ目に位置する。 人口は東京都をしのぐ1400万人。歴史的にも世界の大都市として位置付けられてきた。古代ギリシャ時代には紀元前の王の名を取ってビュザンティオンと呼ばれていたとされるイスタンブールは、ローマ帝国においてコンスタンティヌス1世が首都をローマから遷都し、自らの名を取ってコンスタンティノープルと名付けた。以降およそ900年の間は、キリスト教発展の要であり、ローマ帝国(330-395)時代には人口30~40万人を有す世界一の大都市であった。ビザンティン帝国(395-1204, 1261-1453)、ラテン帝国(1204-1261)時代の間で...
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物流再考

便利になったネット通販を活用させてもらっています。Amazonの翌日配達(今や当日配達)は大変助かっています。楽天もよく使いますし、ゴルフ宅急便もちょくちょく使います。便利な時代になりました。特に送料無料は魅力的ですね。どこかに買い物に行けば、必ず交通費が掛かりますが、それが不要なのですから。 年末12月30日に以下のような記事がありました。「入社10年以上のベテランドライバーでさえも、朝7時半から夜11時までの長時間肉体労働で、昼食時間も取れず12月に入って3㎏痩せた」というものです。その中でもAmazonの物量とその伸びは群を抜いており、2~3割はAmazonのものとのこと。再配達率は2割弱。再々配達率も4%とドライバーの負担になっているようです。しかも宅急便は1個運んで増える手取りは20円。50個運んでも1000円と実入りが少なく、代表的な3K職場となってしまいました。現在Amazonの配送をほぼ一手に引き受けているヤマト運輸は、「休憩時間が法定通り取得できていないこと(労働基準法34条違反)」「時間外労働に対する賃金が支払われていないこと(同37条違反)」により、横浜北労働基準...
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低下するアメリカとこれからの日本

トランプ米次期政権の閣僚の顔ぶれが固まってきた。労働長官にはアンドルー・パズダー氏(ハンバーガーチェーンのカールス・ジュニアCEO)を起用、最低賃金の引き上げに反対するファーストフード経営者で、オバマケアにも反対の立場。現行制度では労働者の負担が増えて外食費が減ると自らのビジネスへの悪影響を主張。環境保護局長官にはスコット・プルイット氏(オクラホマ州司法長官・石炭石油業界から多額の献金を受ける)を起用。地球温暖化に対応しオバマ大統領が進めた石炭火力発電所規制に反対の立場、シェールガスやシェールオイルの追い風もあり、化石エネルギーへの回帰が起こると予想されている(トランプ氏は温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」からの離脱を示唆。一方、習近平氏は「パリ協定」を支持と好対照)。厚生長官にはトム・プライス氏(下院予算委員長・整形外科医歴20年)を起用。オバマケアには反対、同性婚禁止の憲法改正を主張。運輸長官にはイレーン・チャオ氏(ブッシュ政権の元労働長官・アジア系アメリカ人女性として初の閣僚・中国政府と強いパイプを持つ)を起用、規制緩和推進派。中小企業局長にはリンダ・マクマホン氏(プロレス団体...
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善と悪の経済学

「善と悪の経済学」はチェコの経済学者トーマス・セドラチェクが2009年に出版した一般の経済学の著作とは一線を画す意欲作である。経済学の境界を遥かに超え、その語り口は古代まで遡った歴史・哲学、そして倫理学・心理学にまで及ぶ。数学的と捉えられがちな経済学が内包する多くの要素を幅広く論じたこのような著作に出会ったのは初めてである。 今年のノーベル経済学賞は米2教授が「不完備契約の理論」で受賞した。人々は将来起きることを全て事前に知って契約を結ぶことはできないことを指摘し、そのような不確実性の要素(情報の不完全性)をどのように契約において処理すれば良いのかを論じている。新古典経済学が、情報の完全性と将来起こる確実性を人々が有しているという仮定に立って、人々が自己利益の最大化を目指しても市場が社会の利害を自動的に調和させるとしたモデルに対して、現実的な処方箋を提示したと言える。経済学は比較的新しい学問であるが、扱う領域はこのように社会・政治・経済・公共等と不可分であり、実はかなり幅広い領域を扱う学問である。 さて、話を元に戻そう。現在、ほとんどの企業では右肩上がりの成長を当たり前のこととして事業...
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TPPの行方

アメリカ大統領選挙が佳境に入ってきました。不人気者同士の対決とメディアに揶揄されたトランプ候補とクリントン候補のどちらが第45代アメリカ合衆国大統領になるのか、国内のみならず、世界でも注目を集めています。 このお二人ともオバマ大統領が進めてきたTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)に反対の意向を示しています。共和党の指名候補トランプ氏が反対するのは立場上わかるとして、同じ民主党内でTPP推進の一員であったクリントン氏が選挙戦にあたって、TPP反対を表明したのは、変節してしまったからなのでしょうか? 直近の10月3日接戦州のオハイオで、クリントン氏は「アメリカの労働者にとって不公平な内容で、選挙後も、大統領になっても反対する」と改めて強調し、弱点とされる白人労働者層の支持拡大を図ったとされています。国務長官時代のクリントン氏はTPPを「関税障壁を低くする一方で基準を高め、一段と質の高い成長を後押しする」と述べて推進していました。しかし、交渉中からと言うか、選挙戦を意識した時から「内容には反対していた」と先のTV討論会で述べています。 一方、日本側は、もう一年も前になる昨年10月5日、TPP...
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複雑系の知

「複雑系」と聞いて、皆さんはどのようなものを想起するだろうか? どうやら単純ではないのだろうとは推察できるが、一体どういうものであろうか? Wikipediaでは、「相互に関連する複数の要因が合わさって全体としてなんらかの性質(あるいはそういった性質から導かれる振る舞い)を見せる系であって、しかしその全体としての挙動は個々の要因や部分からは明らかでないようなものをいう」とある。 筆者は過去にもこの「複雑系」に興味を抱き、何冊かの本を読んだことがある。学問的にどのあたりから複雑系への体系化の試みが行われたのかは定かではないが、遡っていくと、「全体は部分の総和に勝る」というアリストテレスの言葉にまで行きつくようである。人間はそもそも自然と対峙する形で生活してきた。その中で様々な知恵を生み出し、より詳しく知りたい、危険を賭してでも調べたい、真理を見極めたいという思いが、様々な学問が枝分かれし、専門化していき、数々の発見・発明をしてきた。アメリカの医療は日本と比べると高度に分化しており、筆者も何度かアメリカのPodiatrist(ポダイアトリスト)足の専門医にお世話になったことがあるが、その診...
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米軍基地とは

8月に入って突然、沖縄県・尖閣諸島をめぐり日中関係が緊迫化しています。中国は尖閣だけでなく、対韓国(THAAD配備に対する報復)、南シナ海(戦闘巡行)でも強硬姿勢に出ているようです。尖閣諸島近海では300隻もの中国漁船が来襲し、その漁船を守るかのように中国公船も多数随行していました。そのうちの延べ17隻が接続水域(領海からさらに12カイリ・約22km)のみならず、領海(領土から12カイリ)に入域するという暴挙を犯しました。日本側は毎日のように抗議をエスカレートさせ、9日は岸田文雄外相自らが程永華・駐日本中国大使に抗議する事態にまで至りました。 米国務省のトルドー報道部長は10日の記者会見で、尖閣諸島周辺で中国公船が航行していることについて「尖閣諸島に対する日本の施政権を傷つけようとするいかなる一方的行動についても米国は反対する」と懸念を表明し、中国を牽制しました。これは、1972年の沖縄返還以来、尖閣諸島は日本の施政権下にあり、米国の対日防衛義務を定めた日米安全保障条約第5条の適用対象であることを重ねて強調したことになります。 そうした折、尖閣列島付近の公海(領土から200海里外側)上...