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覇道と王道

覇道とは為政者が徳によらずして武力や権謀を以って行う支配の仕方である。王道とはこれに反して、統治するに仁徳をもってする政治の仕方である。前者は韓非子などの法家の思想で、法治主義である。中国統一を果たした始皇帝も、宰相として李斯を登用して法家思想による統治を実施したとされる。一方、後者は孔子を開祖として戦国期の孟子(性善説)によって形作られた儒家の考え方で徳治主義である。滝沢馬琴(曲亭馬琴)が著した「南総里見八犬伝」で「犬」の字を含む名字を持つ八犬士が、それぞれに仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌の文字のある数珠の玉を持っていたが、まさにこれらが儒教の徳性である。 中国の各王朝は表向きはつねに儒家を尊び、孔子を聖人とし、「礼」(道徳的な規範)をもって自らを律する儒教を政治道徳の鑑としてきたが、実際の政治の運営は法家の思想を手引きとして行われてきた面が大きい(もっとも今の中華人民共和国は法治主義というより、党治体制であるが)。儒家が表の、法家が裏の思想と言われることもあるが、歴史的には儒家の思想が荀子によって変遷し、それが韓非に引き継がれていったという説が定説となっている。つまり孔子が生きた春...
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檄 三島由紀夫

「三島由紀夫vs東大全共闘〜50年目の真実〜」を観た。コロナ禍で映画館も空いていて20人程の観客。いわゆる3密(密閉・密接・密集)の2条件はクリア。コンサートでもクラシック・コンサートは感染確率が低いらしい。なぜなら喋らないからである。感染爆発を抑えなければならないのは勿論だが、経済不況による死者も想定しなければならない。これまでの政府の対策を批判することは簡単だが、この状況下でのかじ取りは本当に難しい。 三島由紀夫が陸上自衛隊市ヶ谷駐屯地で益田総監を監禁し、バルコニーにおいて自衛官1000名ほどを前に、「檄」を撒布して演説を行い、その後、割腹自決を遂げたのは1970年11月25日のことである。当時私は小5であったが、そのニュースや翌日の新聞に掲載された、その最後の生々しい写真は未だに鮮明に記憶に残っている。 三島の生涯は45年という短いものであったが、遺した作品数は多く642である。「金閣寺」「潮騒」「仮面の告白」など代表作があるが、私自身は一作品たりとも全文を読み切っていない。作品そのものにはあまり興味を持てず、一方、三島の人生観や自決に至る思想にはずっと興味があった。 小5の私に...
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イスラエルの人口増加

イスラエルはシオニズム運動(ユダヤ人・ユダヤ教・ユダヤ文化の再興)を経て1948年に建国された国である。面積は四国を少し大きくした程度の小さな国である。人口は900万人を超えているが、過去30年の間に450万人から倍増している。一人当たりのGDPは4万ドルを超え、日本より上位に位置している先進国家である。 イスラエルのイメージはパレスチナをめぐってアラブ人との戦闘がずっと続いているというのが一般的であろう。時折TVで観るイスラエルのネタニヤフ首相は強硬で好戦的なイメージすら感じられる。イスラエル建国70周年を迎えた2018年に米トランプ大統領はエルサレムをイスラエルの首都として正式に認めると発表し、在イスラエル大使館をテルアビブからエルサレムに移転した。自身の支持基盤(正統派ユダヤ教徒や福音派キリスト教徒)に向けた選挙公約を守った形だが、パレスチナ自治政府のアッバス議長は「嘆かわしい」と呼応した。ネタニヤフ首相は「歴史的」な政策転換だと歓迎したが、式典でのツーショットは中東和平を脅かすものとして多くの人々に映ったであろう。 折しも新型コロナウィルスの感染拡大で、日本では全国の小中高等学...
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初等科國史

昨年10月に[復刻版]初等科国史が配本された。これは戦時中に国民学校(小学校)で歴史教科書として使用されていたものである。戦後すぐにGHQにより廃止・回収・処分され、日本の歴史から抹殺された教科書である。敗戦後、GHQ占領下で日本国民は、ほぼ洗脳に近い形で思想教育をされたことは、今や明らかにされた事実である。端的に言えば、日本の弱体化(二度と西洋国家に歯向かうことのないように)と民主化(戦争遂行に有効な縦社会の命令系統の破壊)を推し進めた。 具体的には陸海軍の解散、軍需産業の停止、治安維持法の廃止、特高警察の廃止、財閥解体、農地改革(大規模地主から国が強制的に土地を買い上げ、それを安く小作人に売り渡す)、皇室財産の接収(当初、天皇制の廃止を目論んだが、国民の総反乱に合うかもというマイナス面、あるいはアメリカの目論みに利用し誘導できる、というマッカーサーの判断。しかし、いずれ絶えるように皇族の縮小化は図った。今まさに男系男子の皇室継続危機にさらされている)、天皇の人間宣言、政教分離等により、国民の一体化を阻む施策(国家神道の廃絶)を次々と断行した。靖国神社も焼き討ちにする案があったが、イ...
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Anti-globalization

私の企業人としての歴史を振り返れば、1980年代後半からグローバリゼーションが始まったと言える。最初に海外赴任をしたのは1988年である。それまでも先進的な同僚は海外に出向いていたが、まだ少数派だったように記憶している。会社員を卒業する2013年までは、世界がグローバリズムに向かって進化していることに対して何らの疑問も持たずにやってきた。しかし、昨今はイギリスのEU離脱やアメリカのパリ協定破棄など反グローバリズムが台頭してきており、その他の国でも自国第一主義を旗印に票を伸ばしている右翼政党が目立つようになってきた。どうやら、「経済のグローバル化は生活を豊かにする」とこれまで疑問も持たずに突き進んできたことに、大きな疑問符が付くようになってきたようである。 そもそも世界史的に見れば、最初のグローバリゼーションは15世紀にはじまる大航海時代が起源であろう。これによりヨーロッパ諸国がアジア・アメリカ大陸に植民地を作り始め、経済のグローバリゼーションや物流のグローバリゼーションを起こしてきた。その地球規模の獲得競争の行きついた末が、2つの世界大戦だったとも言えよう。焦土と化したヨーロッパ諸国は...
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如来・菩薩・明王・天部

先日、親父の七回忌を終えた。特段、仏教信者ではないし、神道に帰依しているというわけでもない。「普通」の日本人のように無宗教の空間に暮らしている。俗に葬式仏教だとか、正月は神社にお参りするだとか、年末になれば何となくクリスマスを祝う。そういった意味での「普通」の日本人である。海外に行くと、無宗教というのは、一般には信じられない存在で、「特に宗教はないけど」などというとエイリアンのように思われたものだ。それゆえ、キリスト教だとか、ユダヤ教だとか、昨今ではイスラム教がかなり台頭しているので、表面的には勉強もし、スンニ派とシーア派の違いや、なぜに反目しあうのか、偶像破壊をする連中はどういったドグマに侵されているのか等、国際政治の一端を知る上で教養としての知識は身に着けたつもりではいる。 しかし、考えてみれば仏教も色々な宗派があり、何が同じで、何が違うのか、あまりわかっていない。歴史上、宗派間で争ったということも聞いていない。実家の菩提寺は浄土宗であるが、時折、浄土宗だったか、浄土真宗だったか、度忘れする程度の宗教観と実生活においての距離感がある。年をそれなりに取り、神社仏閣に何となくノスタルジ...
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驕れる者は久しからず

先月のことであるが、女子プロゴルフ界でゴルフ場のバスタオル提供を巡ってツアー通算5勝の笠りつ子プロが副支配人に向かって暴言を吐いた事件が報道された。複数の関係者によると、笠は多くの選手がストレッチなどに利用するクラブハウス内の浴室にバスタオルがなかったことに立腹。一部報道では、コース関係者に「頭が固い。死ね」などの言葉を浴びせたとされる。 同大会では用意していたバスタオルを持ち帰る選手が多く、今年から提供をやめていたという。さらに一部の選手関係者がマナーを守らないため、荷物置き場や長いすも撤去していたとされる。ことは笠のみに限ったことではなく、プロゴルフ界の「常識」としてまかり通っていたことなのではないだろうか。 事件が表面化して日本女子プロゴルフ協会(LPGA)の小林浩美会長は謝罪したが、選手名は明かしていなかった。笠は自身の公式サイトに、直筆の声明文を掲載し自ら謝罪。当面の間ツアー出場を自粛。LPGAは笠を処分する方向で調査している。男子ツアーより人気が高く、TV放映も多かったが、人気選手の理想像と現実の姿の違いにショックを受けたファンも多かったことだろう。 ゴルフジャーナリストの...
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コンプライアンスとは~関電金品受領問題~

関西電力(以下関電)の会長や社長など経営幹部6人が、関電の原子力発電所がある福井県高浜町の森山元助役から、合わせておよそ1億8000万円の資金を一時、受け取り、税務当局からの指摘を受けて、所得税の修正申告をしていたと報道されたのは2019年9月27日のことである。その日の岩根社長による記者会見で、過去7年間に20人が3億2000万円の金品を受け取っていたことが明らかになった。そして、「社内調査の結果、私を含めた役員・社員の一部が、良識の範囲を超える金品については受け取りを拒んだり返却を申し出たものの、強く拒絶されるなど返却困難な状況があったことから、返却の機会をうかがいながら一時的に各個人の管理下で保管していた。現在までに、儀礼の範囲内のものなどを除いてすでに返却を行っていることを確認した」と説明した。続けて「また発注等、当社の業務に関する問題がないことを確認しているが、コンプライアンス上疑義を持たれかねないものと考えており、本件を厳粛に受け止めている。今後二度とこのようなことが起こらないよう、コンプライアンスの徹底に努めていく」と述べた。翌日の日経新聞には「関電、法令順守の欠如露呈」...
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一人殺せば殺人者、100万人殺せば英雄になる

チャップリンの映画「殺人狂時代」(1947年)で、チャップリン演じる殺人犯が死刑判決のシーンで叫んだ有名なセリフである。原文は One murder makes a villain, millions a hero. Numbers sanctify. 〆には「数が殺人を神聖化する」と続く。この映画は第二次世界大戦の勝利に酔っていたアメリカを強烈に皮肉ったものだ。当時アメリカを覆っていた恐怖のレッドパージ(赤狩り)によってチャップリンは追われる身となり、事実上の国外追放によりスイスに移住することとなる。遡ること7年前ナチスが台頭する戦中に製作された「独裁者」(1940年)では、恐怖によって世界を征服しようと企むヒトラーを容赦なく「滑稽な愚人」として強烈な風刺をもって描いた。激怒したヒトラーが、ナチス全軍にチャップリンの殺害を命令したという。 殺し合いによる大量死者というと多くの人の頭には2つの世界大戦が過るものと思う。第二次世界大戦における死者数は5000万〜8000万人とされ(民間人3800万〜5500万人、軍人2200万〜2500万人という統計数字がある)、第一次世界大戦のそれは3...
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日本の立ち位置

前講は主に大航海時代から植民地時代を経て、日本がどのような歩みをしてきたかを論じました。今回は今現在を視点に置いて日本を取り巻く環境と日本自身について論じてみたいと思います。 株価が連日大幅安となっていますが、これはご案内の通り米中貿易摩擦に端を発する米中経済戦争が世界経済の大きな不安要素となって市場を揺るがしている結果です。賢明な皆さんは、この状況が決して経済のみに限定した争いでないことはご存知のことでしょう。将来に向けての覇権争いであり、現状況は米中冷戦の始まりに過ぎないと言って差し支えないでしょう。この収まりには数十年単位のスパンで見ていく必要があります(米ソ冷戦は44年間続きました)。5G、サイバー空間、宇宙空間、AI、デジタル情報など新しい分野での覇権争いが次々とその戦場になっていきます。 さて、日本周辺はどうでしょうか。日韓の関係悪化が連日取り沙汰されています。文在寅政権が変わるまでは日韓関係が好転していくことはないでしょう。文政権の最重要課題は何よりも南北朝鮮統一ですから、理屈が通らないことでも国民感情に訴え、煽るやり方で押し切るつもりなのでしょうが、民衆がそれに最後まで...