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国際機関

日本政府は昨年12月26日、クジラの資源管理について議論する国際捕鯨委員会(IWC)を脱退し、商業捕鯨を再開することを決定した。日本がIWCに加盟したのは1951年であるが、IWCは1982年に資源の枯渇を理由として、商業捕鯨の「一時停止(モラトリアム)」を決定している。日本は1988年に商業捕鯨を中断したが、その前年の87年から、商業捕鯨再開に向けた科学データの収集を目的とする調査捕鯨を開始した。商業捕鯨の中断から約30年にわたり、日本はIWCでその再開を訴え続けてきたが、先の総会で科学的データを根拠として商業捕鯨の再開を目指す捕鯨支持国27、動物愛護を主張する反捕鯨国41(棄権2)の前にIWCにおける商業捕鯨再開の大目標を断念した。 個人的にはもっと早く脱退していてもおかしくないと思っていた。過激暴力集団シーシェパードの資金集め材料の対象とされ、標的とされた和歌山県太地町の努力と訴えは世界的に見て私には余りに無力に写ったからである。事実、2007年の総会でも脱退は示唆されていた。裏話では、商業捕鯨再開によって国際社会からの批判を受けたくない外務省と、再開を訴え続けてきた捕鯨関係者や...
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わび・さび

昨年、十数年ぶりに金閣寺(鹿苑寺)を訪れる機会を得た。外人観光客が溢れ、その一行の流れについていく格好で庭園内を歩いていくうちに、何か外国の観光地にワープしたような感覚に襲われた。 金閣寺は室町幕府3代将軍足利義満が将軍職を子の義持に譲ったあと、1397年に西園寺を譲り受け2階3階を金箔貼りに一新し、政治の実権を握っていた山荘である。義満は南北朝の合一を果たし、有力守護大名の勢力を抑えて幕府勢力を確立した。また、明との勘合貿易で巨万の富を得て、その権勢を誇るため、また明への誇示もあって豪奢な金閣寺を造ったと思われる。4代義持も義満と同様に長男の義量(よしかず)に将軍職を譲ったが、その5代義量は夭折した。6代義教(よしのり)はくじ引きで決まり、僧から俗世に戻る還俗の上で、将軍職に就いた。くじ引き将軍の義教は幕府権力強化のために、強引な強権政治を行ったが、却って部下の守護大名の反発を買い、最後は謀殺されてしまう。義教の死後、幕府は急速に弱体化し、嫡男の義勝が8歳で7代目を継ぐも翌年死去。その弟の義政が幼年にして8代目を継ぐことになり、後に銀閣寺(東山慈照寺)を建立することになる。 金閣寺と...
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科学技術の進化から人の幸せを考える

先月28日、ヒトゲノム編集国際会議に出席した賀准教授は「ゲノム編集」を使った受精卵から双子が誕生したとその実験の説明を行った。同氏によると、研究に8組のカップルが参加したが、すべてのカップルについて、男性側がすべてHIV陽性で、女性全員はHIV陰性であり、HIV感染しにくくなるゲノム編集の研究の正当性を述べたという。同会議組織委員会の委員長を務める米カリフォルニア工科大学のデビッド・ボルティモア教授をはじめ、各国の専門家は賀氏の研究を倫理規則に反していると批判し、実験の真偽について疑問を呈した。 賀氏は中国当局が主導する海外の最先端技術を習得し中国に持ち帰る「千人計画」に参加する人物で、当初中国人民日報は「中国の疾病予防分野におけるゲノム編集技術の応用が歴史的成功に達した」と自画自賛したが、国内外からの批判が噴出したため、この数時間後、同記事は削除されている。そして中国科学技術部の高官は賀氏を「調査の上、処分する」と発言し、同氏は現在無給休暇中とされている。 科学者が後になって自分自身の発明を悔やんだものは過去いくつもある。ノーベル賞の創始者であるアルフレッド・ノーベルは彼の弟の命を奪...
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ブルー・オーシャン戦略

先月、「ブルー・オーシャン戦略」(以下BO戦略)の著者のひとり、INSEAD教授であるチャン・キム氏の講演を聴く機会を得た。「BO戦略」は2005年に刊行され、ベストセラーとなったが、競争の激しい既存市場「レッド・オーシャン(赤い海、血で血を洗う競争の激しい領域)」(以下RO)から、競争のない未開拓市場である「BO(青い海、競合相手のいない領域)」を切り開くべきだとする経営戦略は、当時米国から帰国し、競争の真っただ中にいた当時の私には、ある種の「絵空事」のように聞こえ、本書を手にすることは無かった。とはいえ、世界360万部、44カ国語に翻訳された世界的ベストセラーである本書の内容は表面的ではあるが、把握しているつもりでいた。 最近になって、「競争しない」という概念がいくつかの著書において、クローズアップされてきている。フェイスブックを初期から支えたピーター・ティール(テスラ、ユーチューブ、リンクトインなどの名だたる起業家を輩出したペイパルの伝説的共同創業者)は、トランプ大統領の政策アドバイザーを務め、「競争をしない唯一無二を目指す」という信念でDisruptive(破壊的)Innova...
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在留外国人、中国残留邦人

日本民族の定義とは何であろうか。現代的解釈で言えば、日本語を母国語とする日本列島にルーツを持つ人々ということになろうか。法的解釈からすれば日本政府に申請すれば日本のパスポートが発行される人々ということになろうか。やや歴史を遡れば、大和民族に加え、近世になって日本人に組み込まれたアイヌや琉球民族が包含されよう。いわゆる植民地時代には武力による征服国家に組み込まれた被征服国家の民族も含まれるであろう。 人類学的に言えば、縄文人が日本人のルーツということになっている。2千数百年ほど前には大陸から朝鮮半島や山東半島を経て、渡来人がやってきて(弥生人)席巻したと言われるが、今や縄文人と弥生人の区分けを論じ差別する一般人はいない。 人類のルーツはアフリカのホモ・サピエンスということは定説である。そこから3つのルートで世界に出ていった人類の全ての遺伝子が日本にやってきたとDNAの研究結果から元大阪医科大学学長の松本秀雄氏は言う。氏によれば、現代日本人の半数が弥生人系統、3割が縄文人系統と解析されている。私が最初に外国を旅したのは大学3年生の時であるが、韓国ソウルの百貨店において、店員から容赦なく韓国...
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死刑制度を考える

2018年7月6日、麻原彰晃を含め、オウム真理教幹部7人の死刑が執行された。同月26日には残りの6人も執行され、一連の事件で死刑が確定した計13人全員の死刑が執行された。平成時代の事件は平成時代で終息させるという行政の考え方が反映されたかどうかわからないし、これにより被害者の心が安寧になったかといえば、そういったことでもないだろう。しかし、一連の事件で29人が死亡(殺人26名、逮捕監禁致死1名、殺人未遂2名)し、負傷者が6000人を超える日本犯罪史において最悪の凶悪事件はひとつの節目を迎えたことになる。 これらの死刑執行に対して、テレビ各局はワイドショー宜しく執行の度に逐次報道し、新聞各社は死刑廃止が世界の潮流と称して「文化人」のコメントに大きく紙面を割いた。死刑制度に対しては賛否両論あるのは当然であろう。人が人を裁き命を奪うというのは許されることなのか。それは戦場で人を殺すのは国際法によって免罪されていることと同次元の話ではないものの、正当防衛は許されて、正当防衛できなかった被害者はしょうがないと割り切ることは、普通の人間の感覚を有していればできることではないだろう。 人権活動団体の...
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星野君の二るい打

二ヶ月ほど前になるが、一時色々な形で有名になった前川喜平氏の講演を聴く機会があった。醜聞も気にはなったが、教育行政に長年携わってきた前川氏が、今、そしてこれまでの日本の教育をどのように総括するのか若干の興味をもって聴いた。ちなみに前川氏の祖父は前川製作所の創業者、前川喜作氏で、喜作氏が創設した和敬塾(目白台にある男子学生寮)からは村上春樹氏や隅修三氏(東京海上ホールディングス代表取締社長)など錚々たる文化人、経済人、政治家を輩出している。ちなみに前川喜平氏の妹と中曽根康弘氏の長男弘文氏とは婚姻関係にあり、前川喜平氏と中曽根康弘氏は親戚関係にあたる。教育基本法を改正したいと教育審議会を立ち上げた中曽根元総理と、国家介入から教育の自主性を守らなければならないとする前川喜平氏の二人が、政治家と官僚という立場で、少なくとも前川氏の視点に立てば、対立含みの忖度という位置にあったのは、皮肉な話であったと言えよう。 「星野君の二るい打」という話は、この前川喜平氏の講演の中で初めて聞いた。道徳の教科化が始まる平成30年の教科書に載っていて、前川氏曰く、この話はまさに「個」よりも「全体」を重んじる滅私奉...
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明治維新150年、五か条の御誓文を読み返す

今年2018年は、明治維新1868年から数えて150年の節目の年である。明治維新をやり遂げた薩長土肥の遺勲や幕末志士の思いなど、その評価にはいまだ毀誉褒貶があろう。当時、清の二の舞になってはいかんと、欧米列強へ対抗せんとした尊王攘夷論は、最終的には尊王開国という形に終結していき、大政奉還に至った。勝海舟と西郷隆盛の江戸城無血開城は有名なくだりであり、これにより多くの優秀な人材が犬死することなく以降の時代を牽引することとなるが、その後1年半に渡る戊辰戦争、そして日本最後の内戦である西南戦争を経て、西郷自害に至るまで10年余り多くの血が流れたことは歴史の知るところである。 今世紀に入って2010年にチュニジアで始まったジャスミン革命から波及した、アラブ世界における民主化を求める「アラブの春」は、前例のない大規模反政府デモに発展した。2012年にはエジプトやリビアで強権長期政権が打倒されたが、その後の国内対立とその衝突により混乱を招き、シリアに至っては泥沼の内戦状態がいまだに続いている。それら間隙を縫ってISが建国を宣言し、いっとき大いに勢力を拡大したことは記憶に新しい。 旧体制崩壊後に秩序...
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今どき、まだ文系・理系ですか?

大学受験にあたって、受験生は未だに文系・理系の選択を強いられているのであろうか? 教育現場では便宜上、生徒を文系・理系に分けて、志望校に合格するための必須科目を集中的に勉強するのは手段の最適化という観点からわからないでもないが、卒業して随分経っているにも拘らず、それを引きずって(固執して)いる人を見ると哀れになる。昔はInnovationが50年に一度程度、人生も50歳+αであったので、学生時代に勉強したことで食いっぱぐれることはなかったであろう。しかし、いまやInnovationが十数年に一度、人生100年時代を前提とすれば、生涯学習をもって時代に適応できなくては食いっぱぐれる時代になっていることを認識しなければならない。 昭和2年生まれの私の親父は既に鬼籍に入ったが、現役時代には「私もエンジニアの端くれですから」と半ば誇らしげに人に話していた姿は今でも強く印象に残っている。ちなみに親父は新幹線の車両整備運行に携わるエンジニアであった。 日本の高度経済成長を支えたのは、紛れもなく科学技術の発展によるところが多いであろう。70年代後半には自動車、電化製品、カメラなどは日本製品がNO.1...
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疑似科学

疑似科学とは、いかにも科学的であるように見えて、実は科学的根拠がなく、実証も反証もできない事柄の事を言う。例えば、日本では今でも根強い人気がある血液型と性格の関係は代表的事例と言えるでしょう。昔から伝わる占星術や風水などもその例と言っていいでしょう。科学的思考は重要ですが、かと言って現時点で検証されたとされる科学が万能とも言い切れません。科学技術の進展が発見と修正の歴史であることもまた事実ですから。実際、過去科学的に証明されてきたことが、実は間違っていたという例を探してみました。たとえば、以前は植物性脂肪から作られるマーガリンが、動物性脂肪から作られるバターよりも健康に良いと長らく信じられてきましたが、2000年代に入ってマーガリンに使われているトランス脂肪酸が、LDLコレステロールを増加させ心血管疾患のリスクを高めると指摘され始め、国によっては法規制の対象にまでなっています。一方、宇宙科学では、冥王星は他の8つの惑星と性質が違っていると考えられるようになり、2006年の国際天文学連合の総会によって、「準惑星」というカテゴリに分類され、惑星ではなくなりました。体力増進に関しては、星飛雄...