1月20日、ドナルド・トランプ氏が第47代大統領として正式に返り咲いた。2024年11月の大統領選挙で勝利して以降、トランプ氏は正式就任を待たずに矢継ぎ早に新政権の政策を発表し、世界中がそのSNS投稿などに注目している。なぜなら、世界のリーダーを実質上降りたとは言え、アメリカがいまだにNo.1の大国であることを多くの国が認識しているからである。その政策の中身は実現可能性を疑うものもあるが、不動産実業家らしく、外交交渉においても持ち前のディール(取引)で事を進めようとする氏の手法が明確になってきている。
これまでの政権と明らかに違うのは、一貫した「フィロソフィー」が見当たらないことである。それでは何を基軸に据えるのか? それはアメリカあるいはトランプ氏自身にとって損か得かの「損得勘定」に依拠していることであろう。時にビンボールを投げ、相手をのけ反らせておいて、落としどころを見極めるスタイルである。
違法移民の強制送還を早速始めているが、コロンビアが強制送還された移民を乗せた米軍機の受入を拒否したことで、トランプ大統領は全輸入品に25%の関税を掛け、政府高官らの渡航禁止とビザ取消、財務・銀行・金融に対する緊急制裁などの報復措置に出た。強烈なのはその直後に「FAFO」と書かれたボードの前で、マフィアの親分とも思わせるような縞柄のスーツとフェドラハットをかぶった自分の写真をTruth Socialに投稿した。FAFOとはFuck around and find outの略で、「ふざけたことをすれば、どういうことになるか知ることになる」という最後通告(Final Answer?)的な意味のスラングである。コロンビアは早速白旗を挙げざるを得なくなった。
これまでアメリカは中国・ロシア・北朝鮮・イランを悪の枢軸国として名指しして批判してきた。それは自由と民主主義の旗手としてのアメリカが、国際法を軽んじ、時に無視して周辺国への威圧や内政干渉を行う専制国家に対して牽制役を任じて、その役割を担っていたからだ。そのアメリカが国際機関や国際的枠組みから離反し、考えようによっては悪の枢軸国と同様の立ち居振る舞いをするようになってきた。つまりアメリカ(少なくともトランプ政権は)が国際協調を主導する立場から弱肉強食の帝国主義に立ち戻る現象を今目撃しているのかもしれないということである。
振り返ってみれば、ソ連が崩壊し、世界経済がグローバル化し、一見国際協調が進んだかに見えた国際社会は、実はアメリカの実利のために拵えられた国際ルールだったと見ることもできよう。アメリカ第一主義を批判する向きもあるが、そもそもどのような国でも自国第一主義は当たり前で、アメリカが超大国であったが故の国際協調主義が、中国の台頭によって、そんな呑気なことを言ってたら寝首を掻かれるという認識に至ったということである。
米中対立が本格化する中、改めて世界地図を見れば日本は距離的にも文化的にもアメリカより中国に近い。G7の中でNATOに入っていないのは日本だけである。中国共産党という存在がなければ、アジアでひとつの経済圏をつくることは再来したアジアの時代に相応しいと考えることもできる。ロシアが北方領土を返す気がないのは、日本にアメリカ軍が駐留しているからである。返した北方領土にアメリカ駐留軍が来たら、ロシアは安心して夜眠れない。中国は台湾をいずれ奪取することを明言している。日本の尖閣諸島周辺海域は武装した中国海警局の船舶によって領海侵入され虎視眈々とその期を伺っている。台湾が香港のように中国共産党の手に落ちれば、輸出入貿易量のほぼ100%(重量ベース)を海上輸送に依存する日本は、東アジアの急所とも言えるバシー海峡を自由に航行できなくなる可能性が高まる。
さて、これらを踏まえて、いまだにトランプ大統領に会えずにいる石破首相は2月7日にワシントンで会談を行うべく最終調整中である。そのタイミングを狙ったかのように中国の王毅政治局委員兼外相は2月前半に中国で開かれる冬季アジア大会に合わせた石破首相の訪中を非公式に提案してきている。今の中国は経済的に疲弊しており内政のかじ取りに忙しい。トランプ大統領相手の対米外交も一筋縄ではいかないことは先刻承知である。何とか日本を取り込みたい。困ったときに日本に秋波を送るのは中国の常套手段だ。さて、石破首相どうする? 少数与党で政権のかじ取りは困難を極め、野党の要求を吞み、野党にすがり、厳しい政権運営を余儀なくされている。自民党内ではポスト石破の動きも加速し、短命政権に終わると囁かれている。
石破首相は「令和の列島改造」を謳っているが、1972年に田中角栄首相がぶち上げた昭和の「日本列島改造論」時代は実質GDP成長率が9%を超えた高度成長期であった。今は1%にも満たないので、成長エンジンとして見劣りせざるを得ない。そのことよりも筆者が思い浮かべたのは1972年ニクソン・キッシンジャーが突如訪中し、同盟国日本を頭越しに日中共同宣言を行ったことである。田中首相は押っ取り刀で追随する形を取ったが、トランプ大統領も日本政府が想像もしないような行動を起こさないとも限らない。日本製鉄によるUSスチール買収阻止は明らかに日本はアメリカにさげすまされたと解釈すべきである。
改めて今のアメリカと悪の枢軸国の共通点を整理してみると「力による外交交渉」「公私混同(利益相反)」「親族しか信用できない」「弱い奴は相手にしない」「プーチンのロシア正教会利用とトランプの反ユダヤ主義に制裁という宗教利用」「儲けている連中を跪かせるー中国のアリババ、ロシアのオリガルヒ、アメリカのGAFA(イーロン・マスクもどこまでもつか)」「トランプの米議会襲撃犯1600人一挙釈放(バイデンも息子を釈放したが)の理由は中国の『愛国無罪』と同根」
さて、こんなならず者国家に挟まれ、囲まれた日本、どうする?? 今は身を屈めて忍耐強固、地力を蓄える時期に思えてくる、国民と国土をならず者から守れる真の独立国、Noと言える日本になるために。
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