超限戦~戦争は既に始まっている~

皆さんは「超限戦」という言葉を聞かれたことがあるだろうか。英語ではUnrestricted Warfareと略され、軍事は勿論のこと、経済や文化も含めて全てを例外なく総合的に利用して相手を打ち負かしていく戦術のことである。1999年に刊行された「超限戦」(喬良・王湘穂著)では「ハイブリッド戦」と訳されているが、現代において軍事的な攻撃は兵器の高度化と大衆世論の台頭によって、その使用は非常に限定されるようになってきた。それ自体は喜ばしいことであるが、それゆえ他方で非軍事的な活動のウェイトが過去の戦争に比べて圧倒的に大きくなってきている。

最近の例を挙げれば、ロシアのアメリカ大統領選挙への介入である。このことは米国家情報長官室(ODNI)による報告書「最近の米国選挙におけるロシアの活動と意図に関する評価(2017年1月)」および米司法省モラー特別検察官の調査報告書(2019年3月)によって、2016年米大統領選挙におけるロシア政府の大規模かつ組織的な介入が認められている。具体的にはロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)によるサイバー攻撃によって、米政党・大統領候補者関係者ら300名超にフィッシングメールを送付。パスワードを盗み出すことによって不正に収集した情報をWikiLeaks上で暴露しクリントン陣営に打撃を与えた。あるいは様々なメディア上での影響工作・浸透工作によって有権者の認知を意図的に変更させるプロパガンダ攻撃。さらには選挙関連インフラ等に対するサイバー攻撃による開票・集計結果の改竄を試みた(成功しなかったという結論となっているが、2020年の大統領選挙ではどうだったのか? トランプ氏はバイデン陣営での選挙不正を訴えていたが、連邦最高裁はトランプ氏の訴えを退け4州の結果無効を認めなかった)。また、選挙当日に電力インフラへのサイバー攻撃を仕掛け、大規模停電による混乱を狙った形跡もあった。これら非軍事的活動の最大の特徴は軍事的戦争に比べて圧倒的に低コストで、そして大衆に知られることなく大きな効果が得られること(コスト・パフォーマンスが良い)である。

先日1年ぶりに弾道ミサイル発射という国連の安保理決議違反の蛮行を行った北朝鮮のような弱小国(とはいえオバマ政権の寛容政策によって核を保持し、その存在感は大きくなってしまった)であっても、ハッカー集団「ビーグルボーイズ」によって暗号資産(仮想通貨)の窃取とマネーロンダリング(資金洗浄)で稼いだ外貨を核開発の資金に充てていると見られる。その額は2019~2020年で330億円に上ると国連安保保障理事会で報告されている。

一時話題になったディープステート(世界を牛耳ってきたのはユダヤ系金融資本~欧ロスチャイルド家や米ロックフェラー家等)の支配の原点は「金融」と「司法」と「メディア」の3つである。資本を武器に政府を操り、時にグローバリズムを推進して多国籍企業に富を引き寄せ、時に国を跨いで対立を煽り戦争や内戦を仕組み、軍産複合体に利益をもたらしてきた。そして世界平和・人権弾圧・環境問題などを大義に国連などの公的機関を使って他国に内政干渉し新しいビジネスモデルを創り上げ、世界中からあらゆる富を搾り取る。これら大義構築・利用を意図的に仕掛けている輩もいるが、大多数は表面的な大義に共感し、実は中身の薄い大義に踊らされ利用され世論を形成していく。昔、不要家電の処分費は一台400円だったがリサイクル法施行によって1台4000円になった。差額の3500円はどこに行っているのか? 環境ビジネスの一端であるが、このように「賢い」連中に易々と騙されてはいけない。

この手のやり口は100年ほど前から手を変え品を変え行われてきた手法である。「金融」と「司法」と「メディア」を押さえたものがゲームに勝つ時代なのである。激しさをさらに増すであろう米中対立の両国も、旧ソ連も、古くはオランダ、スペイン、英国などの旧大国も、そして国連各種機関のトップの座を狙う新興国でさえ、このヘゲモニー競争の中で様々なプレイヤーと共に3つのいずれか、または全てを手中に収めようと裏で暗闘してきた。

中国EC事業の成功者ジャック・マー率いるアリババ子会社のアントによる新規株式公開は、デジタル人民元の主導権を渡さんとする中国共産党当局に中止を余儀なくされ、ジャック・マー自身も姿をくらましている。南沙諸島の軍事拠点化をまんまと成功させた中国は国連海洋法条約に基づいて判断された仲介裁判所の判定を「紙くず」と無視している一方で、バイデン政権発足後初の米中外交トップ会談では平然と「中国と国際社会が従い支持しているのは、国連を中心とする国際システムと国際法に裏付けられた国際秩序であり(後略)」と言ってのける嘘つき国家である。このような状況にあって、戦後日本は全くといっていいほど無自覚・無防備であった、いや正確に言えば、占領軍によるWGIP(War Guilt Information Program)によって無防備にされてきた。最近になってようやく独立国家日本を守ろうという機運が若者を中心に盛り上がってきていることは頼もしい限りだが、これまでの遅れを取り戻すのは容易なことではない。

日本においては他国、特に中国共産党のメディアへの影響工作・浸透工作は甚だしい。鄧小平が経済発展を最優先課題として示した外交政策「韜光養晦(とうこうようかい)、有所作為」(能力を隠して力を蓄え少しばかりのことをする)という抑制的な外交方針が転換を遂げたのは2008年のリーマンショック以降である。中国政府はすぐさま4兆元(約56兆円)規模の大型景気刺激策を発表し金融危機がどん底に向かうのを救ったのは事実である。2010年にはGDPで日本を抜き、中国は米国に次ぐ2位の座に就いた。2012年に総書記の座に就いた習近平は、その後自身の体制強化を推し進め、翌年「一帯一路」に象徴されるように「中華民族の偉大なる復興」という中国の夢をぶち上げた。2017年、習近平は時のトランプ大統領に「太平洋を挟んで、米中で世界を二分して管理しましょう」という大それた提案まで行うのである。これを荒唐無稽と笑い飛ばせるほど今の日本の立ち位置は盤石ではない。アメリカの影にいつまでも寄り添うような国家は独立国家足り得ない。ニクソン・キッシンジャーが日本の頭越しに毛沢東・周恩来と握手したことはそれほど昔のことではない(1972年)。

最近のニュースでは菅総理の長男の所属していた東北新社が官僚・政治家への接待問題で表面化した外資規制違反によって結局事業認定取り消しされることとなった。事は7万円の接待ってどんな店でどんなものを食べたんだ?という低次元の話ではない。日本のメディアは外国勢力からの影響を避けるために外資出資比率を20%上限と定めている。東北新社は20%を超えていたが、総務省にお目こぼししてもらったのではないかという疑惑である。しかし民放大手各社の外資直接出資率がどれほどか皆さんご存知だろうか?フジテレビ31.9%、日本テレビ23.63%、TBS14.39%、テレビ朝日12.03%、テレビ東京5.34%(3月16日現在)である。フジテレビと日本テレビは20%を大きく超えている。しかし放送事業免許を剝奪されない。なぜか? 一部の外資に議決権を放棄してもらって、両社とも議決権上の外国人保有比率は19.99%ですとして、免許を温存しているのである。間接出資を含めた比率がどれほどになるのか筆者はデータを持ち合わせない。しかし、重要なのは議決権を有していないとしても、株式保有によって報道内容に十分影響しうる立場になっているという点である。テレビ局はスポンサーの意向を気にするばかりではなく、株主の意向も当然忖度し都合の悪いニュースは報じない。総務省を接待しているのは東北新社1社だけではない。波取り記者と呼ばれる接待担当は各局にいるのである。1年に及ぶコロナ禍の巣篭り生活で日本のテレビ、特に朝の情報番組、昼のワイドショー、夕方のニュース番組は観るに値しないことが良く分かった。国内外の重要なニュースや真実を示すデータには触れず、さほど意味のない感染者数の増減に一喜一憂し、外出自粛・活動自粛を叫び、国民の頭をコロナ色に洗脳している。昨年の国内における死亡者が11年ぶりに減少したことなど、片隅のニュースとしてしか扱われない。日本郵政の楽天への1500億円の出資はでかでかと報じるが、同時にテンセント子会社から657億円の出資を受けるという重要案件についてほとんど報じない。

先日参院本会議で新年度の106兆円予算(一般会計)が成立した。社会保障費35兆円、国債費23兆円、地方交付金15兆円、公共事業費6兆円、文教科学5兆円、防衛費5兆円、新型コロナ対策としての予備費5兆円などが主だった配分である。国会の予算委員会においていわゆる「モリカケ桜」や「文春報道」でどれほど時間を費やしたのか!多くの国民が怒り呆れているに違いない。森友問題8億2200万円、加計問題金銭問題なし、桜を見る会問題5500万円、東北新社接待60万円。追求する必要がないとは言わないが、国家予算の話は兆円、少なくとも数千・数百億円レベルの増減の話である。予算委員会は予算の話に集中して欲しいというか、集中すべきである。1万円弁当のメインのおかずの中身を云々せず、1㎜角単位の沢庵の業者は癒着しているからけしからんと難癖つけているようなものであり全く馬鹿げている。くだらない話の影に重要な問題が語られていないということにこそ、国民は耳をそばだて、まなこを見開いて注目しなければならない。重要な問題を覆い隠そうとする連中が予算審議の本質的な議論を妨害しているのである。そして国家国民にとって重要な政策論議をすべき時間を奪い浪費し、国体を弱体化させようと企んでいる。これらは陰謀論や謀略論ではなく、何十年も厳然と続いている見えない戦争なのである。

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