菅政権の実績

菅義偉総理は9月3日、次期自民党総裁選への不出馬を表明し、事実上総理を辞任することとなった。菅総理は総裁任期満了となる9月30日をもって退任し、自民党総裁選で選出された新総裁が党役員人事・組閣に着手する。10月上旬に召集される臨時国会で首相指名が行われ、新内閣が発足する運びである。その後、首相が衆院を解散するか、あるいは衆院任期満了まで待って、衆議院議員選挙が行われる。

菅首相は新型コロナのまん延で解散のタイミングを逸してしまった。起死回生の党役員再編(具体的には二階幹事長解任)もレイムダック化した菅首相に指名されて今更党役員のなり手はなく、最後は派閥を持たない菅首相の基盤の弱さを露呈する結果となった。解散権と人事権を失って「詰んでしまった」首相の哀れな姿が印象的であった。

思えば1年前に安倍前首相の病気退陣を受けて、ご本人曰く「総理になるつもりはない」と仰っていた当時の菅官房長官は急遽登板という形で総理総裁となった。その時からリリーフ総理と言われたことを思い起こせば、1年という短期で終わる菅政権は意外ではないという論評も可能であろう。

新型コロナ対策の実績を問えば、マスコミは総動員で酷評の嵐だが、他国を見れば、結果としてはよく抑えられたと言ってよい。アジア系での感染者・重症者・死亡者が欧米に比べて少ないのはFactor-Xなる未知のものの存在があったと割り引いたとしても、評価されてしかるべきである。反省点を言うとすれば、これもご本人が昨日会見で述べたことでもあるが、「医療体制確保」ができなかったことが最大の反省点であろう。これは日本医師会との駆け引きが根本にある。菅首相は接種を歯科医や獣医にも広げるという超法規的奇策を弄して日本医師会に揺さぶりをかけた。最終局面になって日本医師会から漸く病床拡充という協力を引き出すことはできたが、遅きに失した。そして尾身会長率いる専門家分科会に振り回されてしまった。感染予防の専門家の意見は重要だが、経済を殺すわけにはいかない。誤解を恐れず単純に言えば、新型コロナによる死者と経済苦による自殺者とのバランスを考慮しなければならない。それ以外の様々な要素を鑑みて政策判断をしなければならなかったが、中途半端で後手後手の対応になってしまったことは否めない。さらに国民に向けての説明も官僚の作った原稿の棒読みで協力を求める国民に全くと言っていいほど訴求できなかった。蛇足ながら、これだけ感染がまん延して「家族間感染」が最大の要因になっている今、「外出を抑えて、人流を減らして」といった感染対策はほぼ意味を為さない。抗体カクテル療法の効果が確認され、病床確保ができれば、早期治療が可能になり、重症化を抑えられるようになる。期待を背負ったワクチン接種が3か月程度しか抗体を維持できないとすれば、「予防」から「早期治療」に軸足を移すべきで、尾身会長の分科会は解散した方が良い。

さて本題であるが、実は仕事師と呼ばれた菅首相がこれまで先送りにされてきた事案をいくつも前進させたことはしっかり評価したい。ただただ現政権を叩き、足を引っぱるだけの非国民とも言える多くの野党議員や、視聴率狙いや不安だけをあおる見出しに頼り、真のジャーナリズムを放棄した多くの大手マスコミは百害あって一利もない。以下に菅政権の実績を列記して、これまでの1年間のご努力・ご献身をねぎらいたい。
1)日本学術会議の見直し-日本学術会議が推薦する会員候補の任命拒否は全くルールに逸脱したところはない。軍事に関する学術を排除する一方で、外国に利する研究に予算が回っている。10億円の予算の私物化に一石を投じた。
2)携帯料金の値下げ-海外諸国と比べて割高な携帯電話料金を引き下げ。大手3社は新格安プランをスタートさせるに至る。楽天モバイルも新規参入で競争環境を整備した。
3)不妊治療に保険適応-公的医療保険の適用範囲に人工授精を含める方針を固め、2022年4月から開始される。それに先立って2021年1月から不妊治療の助成金の拡大(男子不妊治療にも)が施行されている。それまで不妊に悩み、数百万円の費用負担を余儀なくされていたご夫婦に朗報。
4)「従軍慰安婦」の表現は不適切であると閣議決定した。大本の記事である朝日新聞が、朝鮮人女性を強制連行したと述べた吉田清治氏の証言を「虚偽」と認めたにも関わらず、韓国は執拗に引用。この閣議決定により5社の教科書が「慰安婦」と訂正される。
5)ワクチン調達と接種1日100万回-製造元のファイザーCEOに直談判して2000万回分の前倒し供給と5000万回分の追加供給という合意を取り付ける。2021年6月にはワクチン接種1日100万回を超えて、政府目標を達成(ピーク140万回)。
6)対中牽制-日米首脳会談での共同声明に「台湾海峡の平和と安定」の重要性を明記。G7外相会議でも各国が新疆ウイグルや香港での人権問題も含め足並みを揃えるお膳立てをした。台湾海峡を中国が抑えることになると輸入に頼る日本は甚大な影響を受ける。日本と台湾は運命共同体と考えるべき。
7)原発処理水の海洋放出決定-東京電力福島第1原子力発電所の敷地内に溜まる処理水を海洋放出の形で処分すると決め、2年後をめどに実施する。100倍以上に希釈して放出することや風評被害対策及び賠償の責任も明記。
8)土地利用規制法成立-外国資本による土地の買い占めを問題視。特に安全保障にかかわる自衛隊の基地や原発周辺、離島などに土地利用中止勧告や命令が可能になる。
9)皇位継承問題の進展-今後の皇室のあり方を議論する政府の有識者会議(座長・清家篤元慶応義塾長)において、皇族数の確保策として女性皇族が結婚後も皇室に残る案と、戦後に皇籍を離脱した旧宮家の男系男子が養子縁組して皇籍に復帰する案の2案を決定。
10)東京オリンピック・パラリンピックの開催-1年延期となった東京五輪の開催に対しても様々な意見が噴出したが、無観客ながら成功裏に導いた。感染拡大につながったとの声があるが、デルタ株の猛威は世界的な流行であり、東京五輪が感染拡大の原因となったという説には組しない。個人的には間隔を十分にとって観客を入れても結果は変わらなかったと思う。
11)デジタル庁の創設-社会全体のデジタル化を進めるインフラを今後5年で一気呵成に作り上げることを目指す。有能な人材を民間からも採用し、他国に比べて遅れている官民のデジタル化を推進する。

9月17日告示、29日に投開票が行われる自民党総裁選によって、事実上第100代となる新総理が誕生する。これまで立候補を表明した議員や、立候補に意欲を燃やす議員が報道で取り沙汰されているが、私の目から見て菅首相を凌駕する御仁は見当たらない。もちろん世代交代を期待する気持ちはあるが、政治は魑魅魍魎の跋扈するところ。政策を訴えることは容易いが、実現することは遥かに難しい。非難することは簡単だが、その中で実行に移そうとする勇気と胆力の持ち主を国民が後押しすることこそがひいては国力につながる。

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