経済産業省によると、2022年度冬季の電力不足が懸念されている。一般に安定供給に必要な予備率は3%とされ、予測では東京において1.5%程度になるのではないかと報じられている。この背景には新型コロナウイルス禍からの経済回復に伴う電力需要の増大や、ロシアに対する経済制裁措置に伴う液化天然ガス(LNG)の供給不足などが理由とされている。同時に産業界や一般家庭においての節電協力も並行して行われつつあるが、政府はよほどポイントで国民を釣れると思っているのか、基準不明な節電ポイントなる議論もされている。
資源を持たず、さらに原子力発電所を思うように再稼働できない日本のエネルギー自給率は、2019年で12.1%と経済協力開発機構(OECD)に加盟する36カ国中35位という極めて低い水準にある。ちなみに1位のノルウェーは816.7%、2位のオーストラリアは338.5%と日本から見れば羨ましいほどのエネルギー大国である。
今般、岸田首相は新たに原発7基の再稼働方針を明らかにし、次世代原子炉の開発や建設を検討することを表明した。私はこれを素直に評価したい。
日本もこれまで無策で来たわけではない。2014年のエネルギー自給率6.3%から再生可能エネルギーの導入や最長60年まで可能な原発の運転期間延長などによって自給率を倍加させてはいる。
しかし、CO2を多く発生させる化石燃料(石炭・石油・天然ガス)による発電は環境問題への懸念から国際的に問題視されており、日本はその化石燃料依存度が84.8%(2019年)に及ぶため、エネルギー供給構成の変革が強く求められている。
再生可能エネルギーには、太陽光発電を始め、風力発電、バイオマス、水力発電、地熱発電などが挙げられるが、いまだ全体の1割にも満たず、天候の影響を受けやすいものも多く、残念ながらベースロード電源としての位置付けには不安を払拭できない。
直近で電力供給の安定を図るとすれば、安全確保を行った上での原発の再稼働が最も現実的な選択肢であると言わざるを得ない。一方で設備の老朽化の問題もあり、計画から稼働まで最短でも10年かかる原発計画は長期的視野に基づいて着実に進めていかなければ、日本のエネルギー自給率を高めることはできず、エネルギーを他国に依存したままでは経済安全保障上のリスクは高まることになる。幸い、後述する革新炉(安全性、廃棄物、エネルギー効率、核不拡散性等の観点から優れた技術を取り入れた先進的な原子炉)の開発も進んでおり、選択肢は広がってきている。
日本においては「核」や「原発」という言葉は原爆を連想させて極めて否定的に捉えられる傾向にある。原子力発電所の基本原理は火力発電と同じで、火力発電所のボイラーにあたるものが原子炉で、この中でウラン燃料が核分裂を起こして熱をつくり、この熱により水を水蒸気に変え、タービンを回し、電気をつくっているという構造である。わずかな量の燃料で大量のエネルギーを生み出し、一度燃料を入れると、少なくとも、1年間連続運転ができる。日本の原子炉はほとんどが軽水炉で、核分裂によって発生した熱を高温・高圧の蒸気として取り出す冷却剤や中性子のスピードを落とす減速材に普通の水を使う構造になっている。東日本大震災における福島第一原発では津波による電源喪失により冷却水が供給されず、メルトダウンを起こした。
水素爆発の際には、少なくとも16人が負傷し、これらの人に加え、原子炉の冷却と原発の安定化に取り組んだ数十人が、放射線にさらされたと報告されている。うち3人は被ばく線量が高く、病院に搬送されたと報じられた。この原発事故による放射線が直接の死因となった方は政府の公表によると1名となっている。2万人にも及ぶ死者・行方不明者はマグニチュード9.0という未曽有の大地震とその後襲ってきた大津波によるもので、原子力発電所の事故による死者は1名だけであったことをここで再確認したい。
世界の脱炭素の動きに対して資源大国ロシアのウクライナ侵攻は大きな影響を与えた。脱炭素の動きを凍結しかねない程、ロシアは化石燃料供給のバルブを政治的に利用している。そういった状況の中、世界が注目している技術が革新炉の一つである小型モジュール炉(SMR)の導入である。これまでの大規模原子力発電所の出力に比べて10分の1ほどの規模ではあるが、体積の割に大きな表面積がある特徴を生かして、事故時に対流や輻射で冷える仕組みで安全性を向上させている。また送電網が未発達な地域にも設置が可能で、再生可能エネルギーとの組み合わせによって天候変動や災害にも強い、安定した電力供給社会の未来図を描ける可能性もある。SMRの導入は2020年代後半になりそうなので、日本においてはその間の安定供給を現行の原子力発電所再稼働でしのぐしかないのである。
実用化にはまだ遠いものの、核融合発電も研究が進んでいる。重水素と三重水素の原子核をプラズマでぶつけて核融合反応を起こし、生じた熱を使い発電する方式である。発電時にCO2を排出しない次世代エネルギーと期待されている。1億℃のプラズマを維持し続け、持続的に核融合反応を起こすと聞くと人間が制御できるのかと疑いたくもなるが、ウラン235の連続反応でエネルギーを生み出す原子力発電と異なり、核融合発電はプラズマの供給を止めれば反応が止まるため、現在の核分裂発電より安全性が高いとされる。
再生可能エネルギーの先頭に立つ太陽のエネルギー源は、実は核融合である。太陽が行っている核融合反応は、4つの水素の原子核が融合して、1つのヘリウムの原子核になるというものである。つまり、研究中の核融合発電とは、地球に小さな太陽をつくって、このミニ太陽から出るエネルギーを利用して電気を起こすことに他ならない。これを優しいエネルギーと呼ぶか、怖いエネルギーと呼ぶか、を自称専門家の説明に身を委ねるか、裏取りの浅い似非メディアの分かり易い説明に委ねるか、少しでも分かろうと自力で納得いくまで調べてみるか、それは個人個人の判断に委ねられようが、短絡的なアレルギー反応を自分自身の中で発生させないようにしたいものである。
日本の産業界が成長から遠ざかって久しい。安価なエネルギー供給は産業競争力に直結する課題である。日本のエネルギーコストは高く、産業の成長の足かせになっているといっても過言ではない。日本のエネルギーコストが半減すれば、ひとり百万円以上の年収アップが可能といった試算もある。安価で安定的な電力がなければ、設備投資も為されない。将来性のない産業には人材は集まらないし、投資のお金も集まらない。欧米諸国が進めてきたEV化は電力需要を間違いなく増やす。どのような電力が安価で安定的なのかの議論は立場によってまちまちだが、再生エネルギー一本足打法は愚策である。これからの技術進歩も見極めながら、柔軟なエネルギー政策を進めていくことが資源のない日本の取るべき道である。
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