財政出動 vs 財政再建

2月28日に一般会計の総額が過去最大の114兆円余りとなる新年度予算案が衆議院本会議で可決され、参議院に送られました。予算・条約・内閣総理大臣の指名・法律案の議決については、憲法の規定により、衆議院の優越が認められていますので、予算案は年度内に成立することが確定しました。予算成立に先立って、2期10年間日銀総裁を務めた黒田氏に代わって、植田氏が新たな新総裁に4月に就任することが事実上決まりました。昨年5月に安倍元総理が「日銀は政府の子会社だ」と発言し、野党から日銀の独立性への信頼を揺るがしかねない発言だとして物議を醸したことも記憶に新しいことです。日銀の金融政策の独立性や業務運営の自主性をどう見るかも踏まえて、日本の財政について分析してみたいと思います。

日本政府の連結対象にあたる法人や子会社は驚くことに実に395もあります。国が監督権限を持っている団体組織や、国から財政支出を受けている特殊法人や独立行政法人、国立大学法人等々がそれにあたります。後述しますが、日本政府の財務諸表は一般企業のものとは全く異なります。これが日本の大きな政治課題である標題の財政再建優先なのか、財政出動優先なのかをわかりにくくしている要素なのではないかと思います。

日本銀行は日本銀行法で定められている認可法人で、資本金は1億円。日本国唯一の中央銀行であり、➀銀行券の発行・通貨及び金融の調整、➁金融機関間の資金決済の円滑化・信用秩序の維持、➂物価の安定を通じて国民経済の健全な発展の3つを主な事業としています。世界の歴史を振り返ると中央銀行には緩和的な金融政策運営を求める圧力がかかりやすいことが示されています。物価の安定が確保されなければ、経済全体が機能不全に陥ることにも繋がりかねません。そうしたことから、金融政策運営を政府から独立した中央銀行の中立的・専門的な判断に任せるのが適当であるとの考え方が、グローバルにみても支配的になっています。
日銀の株主は日本銀行法第8条により日本政府が55%、その他45%が民間出資となっています。日本銀行が発行する出資証券は東証プライム市場で売買できますが、株主総会はなく、出資者に議決権の行使も認められていません。出資上は安倍元総理の言う通り、日本政府の子会社であるということは正しいですし、株主が議決権を有していないので、形式上は独立性と自主性を有しているとも言えます。

政府が国債を発行し、日銀が買い入れていることに対して財政規律の緩みを生じさせていると非難する向きもありますが、基本的にはイールドカーブコントロール(長短金利操作)が目的であるとの大義名分が成立するので、日銀が政府にコントロールされていると、一概に論じることは難しいでしょう。子会社だから親会社の意向に反論できないとは必ずしも言い切れないのと一緒でしょうか。

日本銀行の総資産は2022年9月末時点で685兆円あり、国債がその資産の8割を占めます。経常収益は3.3兆円、経費・特別損失・法人税を差し引いた当期剰余金1.5兆円は全額国庫に納付されます(子会社⇒親会社)。ちなみに放送法に基づく法人である日本放送協会(NHK)は納付金も払わず、法人税などの税金をほぼ全額免除されている非常に特異な存在です。NHK党には当初期待していましたが、今や輩(やから)の集団になり下がってしまってがっかりしています。日本中央競馬会(JRA)は政府全額出資の組織で納付金は払っていますが、法人税は免除されています。これらは知る人ぞ知るで、一応見える化されてはいますが、知っている人は少ないのではないでしょうか? 

連結対象外でも、いわゆる利権に群がる組織団体は官民問わず山のようにあり、菅総理時代に話題に挙がった日本学術会議の任命拒否問題(2600億円余りの予算、会員は非常勤国家公務員)などはその一例ですし、オリンピックの膨張予算を懐に入れている連中(談合・収賄が次々に発覚)なども同類です。冒頭の過去最大予算が本当の目的に沿った支援と強化に繋がらなければ、真面目に税金を納めている人たちに申し訳が立ちません。GDPも30年頭打ち、人口も減少している中で、国家予算だけが膨らみ、財政赤字が増え続けることに財務省ならずとも不安を覚えるのは致し方ありません。

日本政府の国債発行残高はおよそ1000兆円。そのうち半分は日銀が保有。35%は生保・損保・銀行等、7%は年金基金や公的年金。海外保有者は8%程度です。つまり国の借金(債務)はほとんど日本の債権者の財産になっているという構図が日本のデフォルトの抑止となっていると言えるでしょう。一時EUのギリシャやイタリアは債務残高に加え、自国の通貨発行権を持たないため、デフォルトが心配されました。
連結で見た時の日本政府の債権(580兆円)から債務(1120兆円)を差し引いた債務超過額は540兆円とされますが、国の保有する資産には、売却して現金化することをそもそも想定していない資産(公共用財産:道路、公園、広場、河川、港湾等)が相当あります。さらに日本の場合はEU加盟国と違い、日本円という通貨発行権を持ち、もちろん徴税権も有しています。徴税権を無形資産として計上すれば、B/S上はいとも簡単に債務超過を消すことも可能です。日本政府(財務省)は連結でB/Sと業務費用計算書を公表していますが、P/Lは出していません。ちなみに日銀は政府の連結決算に組み入れられていませんが、組み入れることによって100兆円規模の政府債務の圧縮ができます。

アベノミクスを継承しているとされる岸田首相は植田日銀新総裁とどのように日本をかじ取りしていくのでしょうか。財政出動によって経済を成長させ、税収を増やし、財政再建につなげていく姿勢を見せてはいますが、現時点では国防費増・異次元の少子化対策で出費は膨らむ一方で、収入増(成長の矢)の光はまだ見えてきません。財務官僚一族の岸田首相が財政再建優先でいずれ増税に転向するのか予断を許しませんが、まずその前に、利権に群がり、国民や国家の金を横領し私腹を肥やす「クレプトクラシー」の撲滅に力を注いで欲しいものです。クレプトクラシーに流れる無為な支出は減るどころか増える一方に感じられます。14年前にそれを期待して多くの国民が(私も含めて)民主党に投票しましたが、とんでもない失敗でした(例:二位じゃだめなんですか発言)。その後、自民党は政権を取り返しましたが、やはり状況の改善は見られないどころか、悪化しているとしか私には見えません。科学的根拠の希薄な新型コロナ対策補正予算は2020年度だけで77兆円です。日本維新の会・国民民主党・参政党が健全野党として力をつけて、自民党と対峙してくれることが今の私が可能性を見出せる姿です。(不健全野党の予算案可決後のコメント:立憲民主党「国民の不安が倍増するような予算」、共産党「戦後最悪の予算」、れいわ「牛歩戦術」を展開)

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