2025調達環境を考える

毎年最初のブログは調達活動について論じています。1年前に書いたブログで予想に反したことが2つありました。
ひとつは選挙イヤーであった昨年、軒並み民主主義国の与党が選挙に敗れたことです。英国は保守党から労働党へ14年ぶりに政権交代が起こりました。フランスはマクロン大統領率いる与党連合の議席が大幅に減りました。ドイツではショルツ首相(社会民主党)の3党連立政権(自由民主党・緑の党)が崩壊し、来月に総選挙が行われます。韓国は尹錫悦大統領が弾劾訴追され、代行の首相も弾劾、副首相が代行する中で尹大統領に逮捕状が出されるという前代未聞の異常事態。日本も少数与党の石破首相が右往左往。インドも絶対的支持を受けていたモディ首相率いるインド人民党は過半数割れ。米国は自国第一主義を掲げるトランプ前大統領が再選を決めました。各国それぞれ違う状況や背景があるにせよ、広がり続ける格差への不満、物価高や住宅難など生活に苦しむ市民が変化を求めた結果と総括することができるのではないでしょうか。日本において自公与党が明らかに読み間違えたのは、国民は「景気・雇用・物価高対策」を求める層が53%、一方、「政治とカネ問題」を期待する層は22%。野党の土俵で戦った自民党執行部の明らかな失策でした。

2つ目はASEANとの関係強化に関してです。日本において様々な地政学上のリスク対策としてASEANとの関係強化を提起しました。2022年のASEANの対日本の貿易シェアの推移を2000年との比較において見ると輸出は2.5倍に、輸入は2.2倍に増えています。しかし、シェアで見ると、輸出は13.3%から6.8%へ、輸入は18.9%から7.2%へそれぞれ激減しています。一方、大きく伸びたのは、ASEANの対中国貿易シェアで比率は同比較で輸出3.1%から14.8%へ、輸入は5.2%から22.9%と激増しています。貿易額でみると輸出は23.8倍、輸入は25.6倍と大幅な伸びを示し、ASEAN諸国が中国との経済的結びつきを強めていることが明らかです。
シンガポールのシンクタンクISEASの調査によると、ASEAN諸国がアメリカか中国かの二択を迫られた場合に、どちらを選ぶかという質問に中国を選ぶとした回答者がアメリカを選ぶとした回答者を僅かながら上回りました。昨年の調査に比べると中国を選んだ割合は11.6ポイントも上昇しています。中国を選んだ割合が高かった国はマレーシアが75.1%、インドネシアが73.2%、ラオスが70.6%などとなっていて、いずれも去年に比べて20~30ポイント上昇しています。調査を行ったシンクタンクはこうした国々について「中国の一帯一路構想や、活発な貿易や投資で大きな恩恵を受けている」と分析しています。
一方、南シナ海で中国と領有権を争うフィリピンのほか、ベトナムやシンガポールなどはアメリカを選ぶ割合が依然として高く、日本が唯一の同盟国であるアメリカと今や大国となった隣国の中国との間で翻弄されないためには、政治経済における機軸を今まで以上にしっかりと持たなければなりません。

幸いにも「信頼できる国や地域」という調査では日本が58.9%と米中やインド、EUを上回り1位にランキングされています。信義という面において、日本は非常に好意的に受け入れられているのです。
政治と経済は表裏一体で、経済が良ければ、政治の出る幕は少なくなるし、経済が悪いと、政治の出番となります。しかし、その政治が執り行う政策が的外れだと、経済は好転しないし、政治への信頼も低下してしまいます。今の日本は政治においても経済においても存在感が希薄であるがゆえに、各企業がポリシーをしっかり持って、この不安定な世界状況を乗り越えていかなければなりません。このような環境下で、調達活動に求められる視点は:
1) ビジネスを地域として捉えるのではなく、政治体制を基軸にドメインを定めて、その中でのサプライチェーンの強靭化を図り、リアルタイムでリスクをモニタリングし、機敏に対応すること
2) ビッグデータ分析などデータ主導型のAI利活用により、価格動向・供給リスク・需要予測をリアルタイムで把握して調達活動の柔軟性を維持してオペレーションを行うこと
3) 調達プロセスにおける定型業務を極力自動化し、契約管理、発注処理、価格交渉などを効率化して、人的リソースを戦略的な業務に集中させること(その前提としての意識改革とデータリテラシーなどの人材育成)
4) サプライヤーをいくら多元化しても、強固なパートナーシップ関係がなければ、安定調達は望めない。短期的なコスト削減だけでなく、長期的な協力関係を構築することで、イノベーティブなプロジェクトや共同開発や業務連携を推進。コミュニケーションを強化し、共通の目標を共有して総合的競争力を高めること

であろうと思います。

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