ロシアによるウクライナ侵攻から丸3年、これを契機に中露北が結束を強めていることはこの三国と近距離で対峙している日本にとって好ましからざることである。G7によるロシア経済制裁の効果を無力化するかのように、水面下で中国はロシアに経済的な支援を行っている。北朝鮮は砲弾や装備の提供に加えて、1万1千人以上の兵士をウクライナ紛争の前線に送り出している。北朝鮮は、その見返りに食料や燃料・外貨・軍事技術など得ているとされている。2月24日には中ロ首脳が電話会談を行い、習近平主席は両国関係の強さを「両国の関係はいかなる第三者からも影響を受けることはない」と強調している。北朝鮮と中国の関係は現在微妙な状況にはあるが、米中対立下において、中国が北朝鮮を外交カードとして温存しておきたいという姿勢は変わらないであろう。
最近の北朝鮮に関するニュースを列挙してみると:
●2月28日:警視庁の鎌田徹郎副総監が「北朝鮮はサイバー攻撃で窃取した暗号資産を核・ミサイル開発の資金に充てていると指摘されていて、暗号資産をめぐる犯罪は治安上の課題にとどまらず、安全保障にも関わるもので、大変憂慮すべき状況だ」と述べた。
●2月27日:UAE=アラブ首長国連邦のドバイに本社を置く暗号資産の大手取引所が先週、日本円にしておよそ2230億円相当の暗号資産が盗まれ、史上最高の被害額だとされている事件をめぐり、アメリカのFBI=連邦捜査局は26日、この事件に北朝鮮が関与したと発表した。
●2月8日:ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアと軍事面での関係強化を進める北朝鮮がロシアの技術協力を受けて無人機を共同で開発し、今年から生産する見通しだということが、ロシアと北朝鮮の関係に詳しい複数の関係者への取材でわかった。
北朝鮮に対して制裁を科す安保理決議は、2006年から2017年にかけての11年間で11本が採択されており、その制裁措置は、ヒト・モノ・カネの流れの規制・海上/航空輸送等、多岐にわたってはいるものの、北朝鮮は核・ミサイル開発に多額の予算を費やしている。果たして、北朝鮮の国家収支はどのようになっているのかを多摩大学の金美徳教授の資料を基にひも解いてみたい。
北朝鮮は人口2500万人ほどで、GDP規模は4兆円、一人当たりのGDPは18万円と非常に規模の小さい国である。北朝鮮が最も力を入れている核・ミサイル開発費は、これまでで4000億円程度と推定されている(核開発費は1970年代~2022年までに2300億円、ミサイル発射費用は2022年だけで90発1700億円ほどと見積もられる)。
ミサイル発射費用の内訳は、短距離ミサイル3.6億円、中距離弾道ミサイル18億円、大陸間弾道ミサイル(ICBM)36億円、潜水艦弾道ミサイル(SLBM)9.5億円と推定される。
それらの財源はどのように確保しているのかと言えば:
1)「瀬取り」北朝鮮が石炭370万トン(約406億円)と土砂100万トン(約24億円)を密輸出する一方、石油精製品378万バレルを密輸入。石油精製品の密輸入に関与した北朝鮮の船舶数40隻・企業数130社
2)「IT技術者による送金」200億円規模
3)「サイバー攻撃」2022年窃取した仮想通貨約2500億円、ブラックハッカー6800人を擁す
4)「旧統一教会による送金」日本での献金・上納金約1兆円のうち、1991年12月金日成・国家主席と文鮮明・総裁の会談以降、30年間で4,500億円を日本から北朝鮮に送金。
5)「麻薬(けしの花)の栽培・製造・密輸出」、朝鮮人民軍の管理下で栽培・製造・密輸出しており、規模は500億円ほど
6)「紙幣偽造」偽米ドル札印刷機械をスイスで購入し、規模は20億円ほど
7)「武器密輸出」これまで中東・アフリカや中南米向けに販売していた額は100億円規模。イランを通じて「ハマス」や「ヒズボラ」にミサイルなどの
兵器を供給。ロシアに2022年以降、武器・弾薬940万発分(コンテナ2万個分)を送った。これらの軍需品特需により80~100カ所の軍需工場はフル稼働
8)「ロシアへの兵士派遣」兵士1万人の派兵により、年間約1000億円以上の国家収入になると見られる。北朝鮮の総兵力は約128万人で、ロシア総兵力の90万人を凌駕。今後もウクライナ紛争が継続するとなると、北朝鮮の「人身売買」とも言える派兵は国家収入の手段となりうる。ロシアは兵士不足により、入隊時110万円の一時金や戦死時469万円の補償を付けており、北朝鮮兵士は「割安」とも言える。
北朝鮮の核・ミサイル開発費を仮に年間4000億円とすると、ロシアへの派兵だけで1/4の費用は賄える計算になる。それに加えて、北朝鮮兵士の実地軍事訓練という経験値も買え、(生きて帰れれば)将来の戦時にとって有効な体験になる。
9)「労働者派遣」北朝鮮労働者の受入は、2017年国連安保理決議により禁止されている。この経済制裁以前には、ロシアに推定3万~3万5千人の北朝鮮労働者が働いていた。今の状況はわからないが、月給12万円で4000人働いているとすれば、年間57億6000万円の国家収入になる
10)「人道支援金」大きい金額ではないが、北朝鮮は、2022年国際機関などから人道支援金として2.8億円受け取っている。スイス・スウェーデン・ノルウェーなどが赤十字社などを通じて提供しているものである
キム・ドンス韓国国家安保戦略研究院院主席研究委員(高位級脱北者・元外交官、国連・スイス・ノルウェー・イタリア大使館で勤務、博士)は、2022年7月早稲田大学において、北朝鮮の展望を次のように語っている。「北朝鮮は、支配層2割、中間層2割、貧民層6割で構成されており、支配層が集団指導体制に移行するとしても5年はかかる。また、今の金正恩は親中派であるが、親韓派に転換できるとしても5年はかかる。その後民主化するのに10年はかかるであろう。そして、民主化して安定した国家運営ができるまでに、最低20年はかかるであろう」
日本及び日本国民は、近隣の北朝鮮及び朝鮮半島情勢から目を逸らすことはできないし、長期に渡って注目していかなければならない運命を背負っている。
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