企業の社会的責任と環境保護

ニールセンが今年第一四半期にインターネットが利用できる世界60か国の各国1000人規模に調査を行ったところ、3年前に比較して45→55%と10ポイント「社会・環境活動に積極的に取り組む企業が提供する製品とサービスをもっと購入したい」と回答しました。私は二つの点でこの調査結果に興味を持ちました。

ひとつはたった3年で10ポイント伸びて、世界中の消費者の半数以上が企業ブランドを社会的責任や環境保護といった視点で見ているということです。もう一点は、この調査を地域別に表すとアジア太平洋(64%)、中南米(63%)、中東・アフリカ(63%)、北米(42%)、欧州(40%)となっていて、環境意識の高い欧州が地域別で見ると最も低く、次いで北米と先進地域は相対的に低い値となっていることです。この結果には正直驚きました。この結果は色々な解釈ができると思いますが、社会環境意識の高い欧州がその経済的停滞によって、以前より意識が低下したと見ることもできるでしょうし、多くの欧米企業がその社会環境意識に対応し、ある種当たり前になってきてしまった結果、それほど大きな選択要因にならなくなってしまったと見ることもできるでしょう。日本マクドナルドの売上は前年同期比25%減だそうですが、競合の多様化とサービスのマンネリ化が底流にあるでしょうが、直近では何と言っても一中国工場の鶏肉問題ですね。消費者の購買判断に大きな影響を与えたものと思います。

話を元に戻すと、この調査を3年前と比較したポイント増加率でも新興国が総じて高い数字を示しており、企業にとって社会・環境問題への取り組みは比較的裕福な心に余裕を持っている先進国または富裕層のみならず、世界的規模で対応していかなければならない課題と認識する必要がありそうです。

特にアジア太平洋と中東・アフリカ地域における世代間の差異は顕著で、大部分が発展途上のこれらの地域では、持続可能性に向けた行動を支持する新世紀世代(21~34歳)の回答者は、持続可能性に向けた行動に賛成する意見がX世代(35~49歳)の回答者に比べて平均3倍で、ベビーブーマー世代(50~64歳)の回答者に比べて平均12倍となっています。若い世代が社会環境問題に非常に高い関心を持っていて、それだけでなく購買行動にも表してくることは将来のビジネスプランを考える上でも決して無視してはいけないトレンドであると思います。

翻って原価企画の3段階を示すと、第一段階:当該製品の原価管理としての原価企画(主に原価進捗管理)、第二段階:当該製品群別利益の企画管理としての原価企画(事業カテゴリー全体の利益管理)、第三段階:当該製品群の顧客・社会Benefitの創造管理としての原価企画(顧客Benefitのみならず、社会Benefitを希求し、社会貢献)となります。なかなか一企業が第三段階に至るのは難しいことですが、上記調査結果を見ると、こういった消費者の変化に背を向けて、自社の利益ばかりを追いかけていると、いつの間にか市場から隔離されていたといったことになりかねません。

優良と言われる大企業でも第二段階のところが多いと思われますが、そういった企業でも、売上・利益の長期トレンドを過去10年スパンで眺めてみると、それらが低下している企業は少なくありません。つまり長年にわたって社会的Benefitを生み出していないという証左になります。景気がどうの為替がどうのと言い訳を言ったところで、消費者つまり社会に認められなければ企業の発展も成長もありません。短期的利益に走ると長期的投資を怠りがちになり企業の強みを失っていきますので、一度ジリ貧路線に入り込んでしまうと企業の復活は容易なことではありません。

第三段階の企業として有名なのはネスレです。世界で十数億人が深刻な栄養不良に直面している一方で、飽食に明け暮れメタボとなっている人がいる。十分な水や食料を確保できない人がいて、一方でカロリー取り過ぎの栄養過剰な人がいる。こうした栄養問題の「二重負担」は世界的問題と言えるでしょう。ネスレは慢性疾患と微量栄養素欠乏症の両方に対して、対処療法ではなく積極的に予防的アプローチを先頭になって行っています。

ネスレはこういった世界的規模の大きな問題を一企業だけで解決できるものと考えてはいませんが、それを一企業の責任と考え、「共通価値の創造」に向かって自社の強味を生かして、かつ事業活動を通じて行っていることに惜しみない賛辞を送りたいと思います。

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