ロボットと人類の未来

ソフトバンクグループの決算説明会で孫さんが今後の成長戦略について語りました。イソップ童話の「金の卵を産むガチョウ」になぞらえて自社の成長を投資家に支えてもらえるようにわかりやすく説明しています。ある農夫は自分の飼っていたガチョウが毎日金の卵を産むようになって、それを毎日売って換金し、お金持ちになりました。さらに強欲になってしまったその農夫はガチョウの腹の中には沢山の金の卵があるにちがいないと思い、腹を切り裂いてしまいました。しかし腹の中には金の卵がないばかりか、肝心のガチョウを殺してしまうことになり、全てを失ってしまったという寓話です。ソフトバンクグループはEコマースの成長を予見し、アリババのような小さな会社に投資をし、今年NY株式上場を果たした結果、時価総額29兆円という世界でも10指に入る大企業にアリババは成長しました。これからはインドの成長を見越して同じEコマースのsnapdeal.comや配車プラットフォームのOLA(ANI Technologies)等に総額900億円の投資を決定しています。そして十数年後にはアリババのような投資回収ができるであろうソフトバンクを通信会社という本業のみの視点ではなく、将来を見据えて自分たちと志を一にする新興企業に投資をしていることを評価してもらって、これからも末永く支えていただきたいという主旨の説明をしています。つまりアリババなどのような金の卵を産むソフトバンクというガチョウに引き続き投資をしてもらえれば、次の金の卵を産み落としていきますので、ご期待くださいという訳です。

世界の格差問題など二極化が何かと話題になる昨今ですが、株式などの投資の世界も二極化が進んでいるようです。所謂デイトレーダーと呼ばれる人や注文・売却を投資アルゴリズムによってコンピュータを駆使し、1秒間に数千回という速さで自動決済していくファンドがある一方、5年~10年かけて投資回収を図る長期的視点に立った個人投資家や有力投資会社もあります。自分で学習するAI知能を持ったコンピュータがチェスの世界チャンピオンを破り、プロの棋士を負かしていく様はコンピュータが人間を凌駕していくようで、株式の売買にしてもコンピュータにお任せとしたくなる気持ちもわからないわけではありません。そんな移り気な短期志向の投資家(こういう場合はトレーダーといった方が適しているのでしょう)を長期志向に引き寄せようという意図を、私は孫さんの説明から感じ取りました。

そんなソフトバンクは皆さんご承知のように、人型ロボット工学の世界的な先駆者であるALDEBARAN Robotics社に投資、自然なコミュニケーションが出来るようにと吉本興業グループの株式会社よしもとロボット研究所とも共同でpepperの事業化に邁進しています。最近はTVのコマーシャルにも登場し、来年2月から198,000円という驚きの価格での発売に向けて周到な準備をしています。遡ること15年前ソニーが25万円で子犬型ペットロボットAIBOをネット販売し、瞬く間に完売、当時の話題をさらいました。そのAIBOは、今年クリニックと呼ばれる修理サービスを終了し完全終息に至りました。時代が早すぎたというにはあまりにもったいないことです。発売には至りませんでしたが、二足ロボットAmbassador達の一糸乱れぬ動きは感動もので芸術的とすら感じたものです。個人的には「ラッテ」や「マカロン」といったクマイヌ型になっておもちゃっぽくなってしまったり、AIBOがしゃべりだしたあたりから作り手の勘違いが始まったのではないかと感じていました。

世界のIT大手企業の筆頭であるGoogleもかなりのロボット投資を加速させています。産業用ロボットの老舗ファナックも好調ですし、リビングでは留守中に掃除機「ルンバ」が活躍し、面白いCMで評判の大和ハウスも介護用のロボット開発をしています。小田原にあるHGSTというHDDの工場では上半身まさに人型のロボットがこれまでの作業員に代わって不平も言わずに不眠不休で繰り返し作業をしています。オフィスの仕事も定型作業は派遣社員から賃金の安い地域へOutsourcingされ、いずれはコンピュータの自動作業ということになるでしょう。

一方、世界の先進国では少子高齢化が問題となっています。年金制度など右肩上がりの成長に基づいた社会システムが破綻の危機に晒されています。各国あの手この手で人口ピラミッドを、少なくとも人口減少社会に陥らないようにと平均2人の出生率を維持すべく様々な環境整備や移民政策等を実施しています。しかしながら移民による治安の悪化や自国民の失業率増大などの副作用を生んでいることも否定できません。コンピュータやロボットがどんどん社会生活に入っていくと一体どうなっていくのでしょう。多くの先進国が自国の社会システム維持の為に人口維持政策を進めて、将来ロボット化・コンピュータ化されていく世の中で、果たして就業できるのでしょうか?

米国デューク大学の研究では「今年小学校に入学する生徒の65%は、大学卒業時に現在存在しない仕事に就くだろう」と言われています。事実、現在米国で需要のある職種のうちのトップ10(情報セキュリティの 専門家、モバイルソフトウェアの開発者、ソーシャルメディアコーディネーター など)は、2004年には存在していなかった職種です。

定型業務や単純業務をロボットやコンピュータがやってくれる、答がある問題・やり方が決まった仕事から人類が解放されるというポジティブな捉え方はできるでしょう。一方で、そのような仕事に従事している方はロボットやコンピュータに仕事を取って代わられてしまうというネガティブな考えを持つ方もいるでしょう。労働心理学ではお金という報酬は、単純作業の効率を上げるが、創造性は却って低くなるという研究結果があります。創造的な仕事が増えていくということになると、お金という報酬で人間のMotivationを上げるのは段々難しくなっていくようです。

人間はこれからどんどん創造的な仕事をしていかなければならないという風に言われると、逆に「人間ってそんなに創造的になれるのか?」という反論も聞こえてきそうです。もしもポジティブな考え方が支持されていくとすると、創造性を発揮できる環境というのはどういうものなのでしょう? MITメディアラボ所長の伊藤穰一氏が4P理論を説いておられます。「ある目的を共有し(Project)、友達同士のような近しい間柄で(Pier)、情熱をもって(Passion)、遊び感覚でやる(Play)こと」で人間は創造性が発揮されるそうです。成程。

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