今、改めて開発購買を考えてみる

数年前、とある会社で「購買本部」を「開発本部」に統合し、「開発・購買本部」とするという組織改革を行った記事を見た。「開発購買」という言葉は、製造業ではかなり市民権を得たものと思うが、それを文字通り体現したような英断なのであろうか。私はこの会社の詳細は分からないし、社内事情にも勿論精通していないので、その経緯や背景はわからない。なぜこの記事が気になったかというと、筆者が調達部門長として、開発購買のさらなる進化を目指していた時、開発設計部門と調達部門との融合をかなり真剣に具現化しようと議論していたことがあったからである。

蛇足ながら、開発購買を定義付けしてみると、「商品企画・開発設計段階から、計画利益を確保するために、製造原価や品質・納期などの目標を達成すべく、開発設計・調達・サプライヤーが三者連携で協働推進する一連の活動」と言えるであろう。そもそも開発購買は「製品開発段階での購買活動」の略であるから、設計者の行う仕様決定・図面作成の一連のプロセスに、市場環境やモノづくりに精通した専門家たるバイヤーが関与して、初期段階からのQCDの最適化を実現していく活動である。

サプライヤーの能力を十分に引き出して活用することは開発購買の成功に必須の要素であるが、まずは同じ社内の開発設計と調達の連携が図られなければ、外部の力を十分に引き出すことはできない。その意味では開発設計と調達の一体化である組織の統合は一つの型と言えるかもしれない。しかし、連携を図るために組織の統合をするというのはいささか早計に過ぎるのではないかと最近感じている。というのは、開発設計と調達では本来の役割が違うからである。役割が違うということは存在目的が異なるということである。勿論、両部門とも事業や会社の目標を共有し、同じ目標に向かって鋭意努力する訳であるが、開発設計と調達では求められる機能が違うことを認識すべきである。

開発設計の究極の役割は社内でしかできないValue Creationである。調達の役割は社外からのValue Purchasingである。前者はInvestmentの決断が求められReturnが期待され、後者はExpenseという形でCash Outの個々の妥当性を問われる。

まず両部門の最初の連携作業は内外製方針を決めることである。この開発・設計・製造・サービス等を社内で行えば、競合に対して優位を保てるかどうかを判断することが極めて重要であり、そのためには調達がその役割を通じて、市場の動向や競合の状況を探り、それをFeed Forwardして、事業企画あるいは開発の基本方針を適切に決定していくことになる。

開発設計はひとたび社内開発が決まったら、そのリスクを背負いつつ、その成功に向かって邁進する。数年後、結果的に失敗あるいは競合に負けることがあるかもしれないが、それを恐れていては大きな成功は望めない。それゆえ、開発設計者は寝食を忘れて開発設計に打ち込む。会社の成否を左右する大仕事である。

一方、調達部門は外部から調達することが決まった機能(敢えて、物品とは言わず、ある機能を満足するものを外部調達するという役割を負わせている)を最小のコストで、使用上の要件を満たす品質レベルで、必要な時に必要な量が得られるように万事手配する。

開発設計と調達の組織的融合は理想的なように見えるが、組織一体化後に開発設計者が外部からの調達品の価格交渉を行うようになってしまっては、開発設計の本来の存在理由であるValue Creationに十分な時間を割くことができない。調達がCash Outについて責任を負うのであって、この二つの異なる役割を踏まえた上で、それぞれがその役割を果たすように共同戦線を張り、切磋琢磨し、情報共有を行い(同じフロアで隣同士にするだけでも効果は絶大)、戦略構築・実行を連携して行っていくのが本来の姿であろうと思う。外部購入費が増えるのは調達部門としては腕の振るい所が増えて存在価値も高まるが、顧客への価値を外部に頼りすぎるというのは、会社や事業として問題である。社内のValue Creationが無くなれば、その存在は風前の灯であろう。

開発設計部門が開発購買の役割を積極的に担う会社も少なからずある。開発購買という活動は現行組織に縛られて行うものではなく、適材適所の組み合わせで行えば良いと思うが、よく聞こえてくるのは、目標原価は達成できたものの、量産で品質問題や納期問題、キャパシティ問題に直面してしまい、計画通りの出荷が出来なかったり、販売機会損失に至ってしまうことである。

開発購買は、開発設計段階で原価の8割以上は決まってしまうというデータから注目されてきたところがあるが、原価低減だけが目的ではない。量産段階でのQCDの最適化が目標なのであって、開発設計部門だけでは、この目標達成が極めて困難である。調達部門の経験と知恵が期待される分野である。

開発設計者がValue Creationにその知識と技能と時間を費やせるように、調達部門は開発設計部門を支援できるだけの知識と技能を会得して期待に応えられる組織にならなければならない。そしてサプライヤーを含めた三者連携をリードしていくコーディネート力が求められるのである。

コメント