9月27日の国連本部で振る舞われた昼食は、舌の肥えた世界の首脳らを驚かせるのに十分なものであったろう。
昼食を担当した料理人たちは、現代人の食生活にみられる多大なる無駄が、世界的な気候変動に影響を与えていることの再確認につながることを願い、本来なら廃棄処分されるはずだった材料(ゴミ)のみを使って料理を完成させたのだ。
国連本部で提供されたのは、野菜類の絞りかすを原料とするベジタブルバーガーと、それに添えられた「でんぷん状のトウモロコシから作られた『コーンフライ』」だった。
このメニューを考案した著名な料理人ダン・バーバー氏は、「典型的なアメリカ料理をビーフではなく、牛の餌となるトウモロコシで作った。通常なら捨ててしまうものから、本当においしいものを作り出すことへの挑戦」と語った。
と同時に、今回の昼食会のようなイベントを通じて、食文化が徐々に変わっていくことを期待しているとして「長期的な目標は、残飯から食事を作らないようにすることだ」と食べ物の無駄を削減すべきであるとコメントしている。
国際連合食糧農業機関(FAO)の要請により、スウェーデン食品・生命工学研究機構(Swedish Institute for Food and Biotechnology、以下SIK)が2010年8月から2011年1月に実施した調査研究によると、世界全体で人の消費向けに生産された食料のおおよそ3分の1、量にして年約13億トン(7500億ドル相当)が失われ、あるいは捨てられていると示唆した。
日本での統計では、農林水産省が今年4月30日に公表した「食品ロス統計調査」がある。日本の世帯食品ロスは3.7%で、その内訳は過剰除去(調理時の大根の厚皮むきなど)が2.0%、食べ残しが1.0%、直接廃棄(賞味期限切れなど)が0.7%となっている。外食産業では、結婚披露宴で23.9%、宴会で15.7%と高い食品ロス率を記録しているが、およそ世界の食料の3分の1が無駄になっているとはにわかに信じられない数字である。先のSIKの調査によれば、消費段階で廃棄される一人あたりのロスは欧米が年間100kg前後であるのに対して、日本のそれは15kgとまさにMOTTAINAI精神の面目躍如たるものがある(Apple to appleの比較ではないので注意を要する。このブログを書くにあたって、色々調べたが、記事によっては日本の食料廃棄率は世界一であると何か意図的なものを感じるものもあったが、筆者はその根拠を見つけることはできなかった)。
フードサプライチェーンとは食料の生産から貯蔵、流通、加工、販売、消費に至る一連のプロセスを言う。調べてみると、食料の種類や地域によってそのロスの構成に大きな違いがあることがわかった。先進工業地域では廃棄の約4割が消費段階で無駄になっているが、開発途上地域では廃棄の9割ほどが消費前段階の、生産から小売り段階で無駄になっている。つまり開発途上地域では農業生産過程で生じるロスがフードサプライチェーン全体のロス総量の大半を占めているのである。一例を挙げれば、果実や野菜などは、収穫後と流通段階でのロスが甚だしく、暖かく湿度の高い気候条件で腐敗してしまう品質劣化や、供給過剰をもたらしやすい季節性も原因となり、収穫のおおよそ半分が消費段階前に廃棄されてしまうのである。
日本のような先進国の視点から食品ロスを考えると、まだ食べられるのに賞味期限が過ぎたからという理由で捨てられたり、スーパーの高い外観品質基準によって、店頭では並べられないような規格外野菜や魚が出荷されずに無駄になったりということを想起してしまうが、一方の生産地域(特に低所得国)ではフードサプライチェーンの初期段階で、予期しない天候不良、病害虫の発生、貧弱な貯蔵施設、インフラ整備の不足、旧式な輸送形態、食品取扱技術の未熟、あるいは流通段階での非衛生的な市場環境などの悪条件によって大量の食糧が無駄となっているのである。
CSR活動に熱心なネスレはCSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)を企業の基本に据え、環境サステナビリティや農業・地域活動に力を注いでいる。世界中に10億人に至らんとする人々が栄養不足の状態にあり、一方で、食べ過ぎで肥満になっている人が10億人以上もいる、この低所得国における低栄養と先進国における過剰栄養という問題を企業の最重要課題として取り組んでいる姿勢は特筆すべきことである。二つの問題は独立事象ではなく、フードサプライチェーンを見たときには双方からの解決のアプローチが重要であることを見逃してはならない。
栄養不足に苦しんでいる人々への世界からの食糧援助量は600万トン、日本一国の食糧廃棄量だけで800万トンという数字を弄んでも、この問題は解決に向かわない。
先進国での消費者意識の変革と、開発途上国での収穫技術、農業者教育、貯蔵施設や輸送方式を改善することによって生産者に展望を与えるという両方に施策が必要である。
日本では、加工食品に3分の1ルールと呼ばれる商習慣があり、賞味期限が6カ月であれば、これを3等分して、メーカーが卸や小売店に納品できるのは製造日から2カ月までの製品。その後、店頭で販売できるのは製造から4カ月までの製品。それを過ぎると、賞味期限まで2カ月残っていても、店頭から撤去、廃棄するという仕組みだそうである。日本の消費者は鮮度にこだわると言われているが、果たして本当に消費者が望んだことなのか、企業が先走ってその方向に誘導したのか。賞味期限も消費期限も無かった時代には、味見して確かめ、時に腹を下したりして実地で体得していったものであるが、今や自分の舌より、良く知りもしない企業の刻印数字を頼りにするのは、過剰サービスの結果なのかもしれない。小売り大手の中には、この期間を見直そう、という取り組みをしている企業もあり、実証実験も始まっているという。健全な消費者と健全な生産者が、将来食糧不足になるかもしれない世界を救う一助になってくれるものと思う。
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