どこで見聞きしたか記憶は定かでないが、私のセミナーでの余談でこんなことを話すことがある。
転職面談で「あなたから質問はありますか?」と訊かれたら、この3つを質問して面接官がすべてよどみなく答えられたら、是非その会社にお入りなさいという話である。
質問⓵「御社のお得意先はどちらですか?」-面接官によっては「そんなことも調べずに面接に来たのか」とNagativeに思われそうであるが、そこを押して訊いてみよう。判断基準は「トヨタです、ホンダです」と顧客を呼び捨てにしていたとしたら、その会社は顧客志向の会社とは言い難いです。「トヨタさんです。ホンダさんです」と「さん」を付けて顧客を呼んでいるのであれば、従業員に顧客志向が浸透している良い会社と思って差し支えないでしょう。海外の場合「さん」という英語の呼称は無いので、この質問は機能しません。
質問⓶「御社の企業理念を教えてください」-この質問も同様に「そのくらい調べて来いよ」という項目かもわかりませんが、案外「企業理念」は従業員に浸透していないものです。会社によっては企業理念を持っていない会社もありますし、とても覚えきれないような長いものや、、網羅的で項目が多すぎるものも少なくありません。企業理念とは、わかりやすく言えば「我々は何のためにこの会社に集まっているのか?」つまり、事業遂行における基本的な価値観と目的意識を表現しているものです。従業員の目線で考えれば、日々の業務を行う判断基準になるもので、2択であれ、3択であれ、この企業理念を基に業務上の判断を行うという道標のようなものです。これが従業員に浸透していないとなれば、企業全体のベクトルが合うはずもなく、行き当たりばったりな非効率な企業となってしまいます。古くは毎朝「社是・社訓」を唱える会社も多くありましたが、決して意味のない行為ではありません。
質問⓷「あなたは毎日ルンルン・ワクワクした気持ちで会社に来ていますか?」-かなり不躾な質問ではありますが、これをYesと答えられる企業はどれほどあるでしょうか。かなり少数だとは思いますが、必ず存在しています。その会社の従業員の目は例外なく輝いています。いわゆるMotivationの高い会社ですが、個々の能力や可能性が十二分に発揮できている会社と言えましょう。
今日は、⓶の企業理念について書きたいと思います。日本では一流企業の代名詞とも言えるトヨタは1935年に豊田佐吉の考え方を「豊田綱領」として5つにまとめました。「上下一致、至誠業務に服し産業報国の実を挙ぐべし」や「研究と創造に心を致し常に時流に先んずべし」などは面目躍如たるものがあります。1992年にグローバルビジネスに合わせた形に変えていますが、却って凡庸な感じになってしまったと感じます。http://www.toyota.co.jp/jpn/company/vision/philosophy/
ソニーはHP上で創業者の理念「設立趣意書」を紹介してはありますが、今の企業理念は不明です。CSRの考え方や環境への取り組みビジョンは明記してありますが、断片的で、従業員の向かうべき指針は残念ながら見当たりません。デザイン・フィロソフィーのサイトで「人のやらないことをやる、つねに一歩先んずるという創業当初からの企業理念のもと、」と書いてあるところをみると創業当初の設立趣意書を拠り所にしているようですが、70年前と今では全くと言っていいほど状況は変わっているので、改めて明確にした方が良いでしょう。ソニー迷走の原因の一端はここにもありそうです。
OLC(オリエンタルランド~東京ディズニーランド運営母体)の企業使命は「自由でみずみずしい発想を原動力に、すばらしい夢と感動 ひととしての喜び そしてやすらぎを提供します」というものですが、CSR方針として掲げている「未来をひらく子どもたちの笑顔」や「お客様と社会にひろがるハピネス」の方がピンときますね。東日本大震災の時のお客様への対応は語り草になっていますが、怯えている子どもたちに何をすれば「笑顔」になってもらえるかと現場で考えて、お道化て見せたり、ぬいぐるみをあげたり、断熱シートを配ったりといった現場判断が柔軟かつ迅速にできたと言われています。
外国企業の例を挙げましょう。「Googleが発見した10の事実」のひとつに「悪事を働かなくても金儲けはできる」というのがあります。「Don’t be Evil(悪に染まるな!)」というのも社内でよく言われるそうですが、Googleにとってではなく、ユーザーにとって最善の取り組みに専念すれば、「結果」は自然に付いてくるという理念を表しています。Appleは「improve the lives of millions of people through technology」(テクノロジーを介して何百万人もの人の生活を変える)。Steve Jobsの信念の基、まさに体現している通りです。
残念な企業理念の例を挙げましょう。サイバーエージェントのビジョンは「21世紀を代表する会社を創る」。何をするかが一切語られていませんから、従業員は何をするべきか、してはいけないかが全然わからないと思います。日本マクドナルドホールディングスの経営理念の最初に掲げている会社経営の基本方針は「ハンバーガービジネスで培った資産を有効活用し、経営の効率化と機動性の強化を通して企業価値の向上を図ることにより、長期的かつ安定的なグループ企業の成長を図りたいと考えております」。顧客視点は全くありません。これでは今の凋落はさもありなんといったところでしょうか。
企業理念と並列的にあるのが、ミッション(使命)であり、企業の果たすべき役割が明示されます。そして、何年後にはどうなっている、こうありたいというような目標というべきビジョンがあり、その実現の方策としての企業戦略につながります。企業のドメインが大きくなると企業理念と従業員の日々の仕事との間が乖離していってしまうので、企業によっては「行動指針」というようなものも作成します。あれをしてはいけない、これをしてはいけないというようなコンプライアンス視点で語られることの多い行動指針では「校則」のように従業員の行動を縛ってしまうようなものも多く見受けられます。冒頭のワクワク感を醸成するためにはベクトルを外向きにするような行動指針が望ましいですね。
そういった観点で、従業員に最もわかりやすいと思ったのは、電通の4代目吉田社長が1951年に作った「鬼十則(行動指針)」です。1、仕事は自ら創るべきで、与えられるべきでない。2、仕事とは、先手先手と働き掛けていくことで、受け身でやるものではない。3、大きな仕事と取り組め、小さな仕事はおのれを小さくする。4、難しい仕事を狙え、そしてこれを成し遂げるところに進歩がある。5、取り組んだら放すな、殺されても放すな、目的完遂までは……。6、周囲を引きずり回せ、引きずるのと引きずられるのとでは、永い間に天地のひらきができる。7、計画を持て、長期の計画を持っていれば、忍耐と工夫と、そして正しい努力と希望が生まれる。8、自信を持て、自信がないから君の仕事には、迫力も粘りも、そして厚味すらがない。9、頭は常に全回転、八方に気を配って、一分の隙もあってはならぬ、サービスとはそのようなものだ。10、摩擦を怖れるな、摩擦は進歩の母、積極の肥料だ、でないと君は卑屈未練になる。
エネルギーの湧いてくる行動指針です。
ソニーにも大曾根部隊ではソニー開発18か条なるものがあったそうで、「鬼十則」と非常に似ています。
http://yusan.sakura.ne.jp/library/sony18/
コメント
いつも拝見しております。仰る通りだと思います。会社全体がどこに向かっているのか、何が基礎にあるのかが見えないです。
鬼十則、有名ですよね。改めて読んでみるとポイントが凝縮されていますね。
コメントへのスパムメールが多いので、あんまり見てませんでした。過去にスルーしているものがあったらm(__)m。どのような会社でもResource(人物金)は有限なので、それを有効に配分するためには企業として理念やVisionが必要です。これがないとResourceの効率配分が行われなくなりますね。