強面の中国はどこまで続くか

国連海洋法条約に基づくオランダ・ハーグの仲裁裁判所は今月12日、南シナ海での中国の海洋進出を巡り、中国が主権を主張する独自の境界線「九段線」に国際法上の根拠がないと認定しました。中国は1996年に同条約を批准していますが、判決は「紙くず」として受け入れないという声明を発表しています。この裁判はフィリピンが2013年1月に提訴し中国は拒否したものの、3年半かかって中国の主張に根拠はないという審理結果が出ました。この裁判は相手国の同意がなくても一方の国の意思だけで始められるのですが、強制力がないので、冒頭の「暴言」が中国から発せられたわけです。5人の仲裁人に関しても中国側は「公正でない」と批判していますが、フィリピン人妻を持つスリランカ出身の所長はガーナ出身の所長に交代していますし、その他にはフランス人、ポーランド人、ドイツ人、オランダ人それぞれ海洋法に詳しい人たちが人選されています。

仲裁裁判所での案件には過去、国際環境保護団体グリーンピースのオランダ籍の船アークティック・サンライズ号が2013年9月、ロシアのガス田に近づいて運動家がやぐらに乗り移ったので、ロシアが拿捕した事件があります。オランダは国際法違反だとして仲裁裁判に申し立てを行い、仲裁裁判所がオランダの主張を一部認めてロシアに賠償を命じましたが、ロシアはこれに応じていません。
逆に紛争の両当事国が判決を尊重して従ったのが、バングラデシュとインドがベンガル湾で境界を争った事例です。バングラデシュが2009年に仲裁裁判所に申し立てをして、判決が出たのは2014年7月と5年かかっています。両国間の長年の懸案であった海域は約8割をバングラデシュ管轄、残りの2割をインドの管轄という判断になりました。インドは境界が確定すれば、資源開発が進められるとして判決を受け入れています。

仲裁裁判の結果は強制力を持たないので、それでは意味がないとする向きもあるでしょうが、それは必ずしも正答とは言えません。国際組織は一見、公正に運営しているように見えますが、決してそんなことはありません。国際政治の裏舞台は権謀術数が蠢いています。
もし仲裁裁判所が強制力を持てば、その国際組織を牛耳ろうとする力学が必ず働きます。近々の事例では、ユネスコ(国連教育科学文化機関)において中国が「登録小委員会」に働きかけ、南京大虐殺を記憶遺産に仕立て上げました。当時20万人しか市民がいなかった南京において30万人虐殺されたとする反日工作です(戦時ですから、虐殺が何もなかったとは思いませんが、「大虐殺」とするのは論理性に欠ける)。南京陥落まじかには中国軍兵士が軍服を脱ぎ捨て、南京市民を殺し、市民に化けて安全区に逃げ込んだりしているのです。日本軍の南京占領後、南京市民は25万人に増えているのですが、もし大虐殺があったとすれば、皆一刻も早く南京から遠い町へ逃げていくのではないでしょうか?
日本はユネスコに最も分担金を負担している国です。そのお膝元で、中国は国際機関を利用して「嘘をつき続ければやがて真実になる」がごとくに世界中に喧伝しているのです。世界遺産は比較的厳格に運営されているようですが、記憶遺産の方はまともな審議が行われずに上部組織の「国際諮問委員会(IAC)」に勧告され、最終的に多数決によって登録が決まったとされています。
そこの事務局長はブルガリアのイナリ・ボコヴァ女史で、次期国連事務総長の座を狙っているとされる人物です。中国からの支持を取り付けるために裏取引したと噂されています。
現国連事務総長の藩基文氏は「国連は中立な機関ではない」と言い放ち、平和を希求する事務総長という立場にありながら中国の軍事パレードに出席する程の厚顔無恥な不適格者です。彼の国連事務総長としての任期は今年限りです。事務総長は、拒否権を有する米英仏露中の1か国でも反対すれば承認されません。ボコヴァ女史が国連事務総長の座を射止めるかどうか注視したいと思います。⇒(10月6日、次期国連事務総長はポルトガル元首相のアントニオ・グテレス氏に内定。ボコヴァ氏は非公式投票では4位、女性ではトップだった。)

登録された南京大虐殺文書は11種類ですが、日本も決して諦めることがあってはいけません。全てに証拠価値がないことをひとつひとつ反論して潰していけば、中国が国ぐるみでウソつきだということを世界にアピールできるチャンスと捉えるべきです。
南シナ海の領有権の当事者である中国は、経済力を背景にフィリピンと個別交渉を始めていますし、ベトナムやラオス、アフリカ・中南米等の小国などにも経済支援をちらつかせ、取り込みに躍起になっています。欧州各国はロシアとの間に抱えるクリミア問題と違い、地理的にも離れており、中国と真っ向から対立することは不利益に繋がるとして、積極的な発言を控えています。日本は米国と連携してこのアジアの海洋問題に積極的に対処していかねばならない立場ですが、アメリカ大統領選挙を控える米国はすぐには明確な行動に出そうもありません。

しかし一方では、中国の外交政治は国内政治と言われ、対外的に理不尽と思われようと、ひとたび弱腰に映れば、国内の共産党への支持が失われ、反体制運動が広がりを見せるという危機を孕んでいます。ですから、強面の中国は当面引っ込む気配はありません。太平洋を米国と中国とで分け合おうという神経の持ち主ですから、地理的距離感から見れば日本は中国に取り込まれてしまう位置にあります。日本の取るべき外交政策は自由と民主主義を標榜する米国と連携し、中国には毅然とした態度で正論を述べ自制を促し、他の世界の国々と対話を深めて、親日国を増やす。日本にも中国含め沢山の人たちに来日してもらって日本の素晴らしさを体感し親近感を持ってもらう。こういった事でしょう。

正しいと思われる主張が悪魔の動機から発せられたとすれば、それを看過することはできません。北朝鮮では韓国の動画を見ると罰せられます。中国でも厳しい情報管制が敷かれています。このネット社会において、いつまでも情報統制は続けられません。習近平氏は、自分が思うほど自分は利口ではないこと、習氏が思うほど国民は馬鹿でないことを悟るべきです。アンデルセンの代表作「裸の王様」は1837年にデンマーク語で発表され、日本には1888年に紹介されています。中国にはきっとまだ紹介されていないのでしょうね。

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