米軍基地とは

8月に入って突然、沖縄県・尖閣諸島をめぐり日中関係が緊迫化しています。中国は尖閣だけでなく、対韓国(THAAD配備に対する報復)、南シナ海(戦闘巡行)でも強硬姿勢に出ているようです。尖閣諸島近海では300隻もの中国漁船が来襲し、その漁船を守るかのように中国公船も多数随行していました。そのうちの延べ17隻が接続水域(領海からさらに12カイリ・約22km)のみならず、領海(領土から12カイリ)に入域するという暴挙を犯しました。日本側は毎日のように抗議をエスカレートさせ、9日は岸田文雄外相自らが程永華・駐日本中国大使に抗議する事態にまで至りました。
米国務省のトルドー報道部長は10日の記者会見で、尖閣諸島周辺で中国公船が航行していることについて「尖閣諸島に対する日本の施政権を傷つけようとするいかなる一方的行動についても米国は反対する」と懸念を表明し、中国を牽制しました。これは、1972年の沖縄返還以来、尖閣諸島は日本の施政権下にあり、米国の対日防衛義務を定めた日米安全保障条約第5条の適用対象であることを重ねて強調したことになります。
そうした折、尖閣列島付近の公海(領土から200海里外側)上で11日にギリシャ船籍の大型貨物船と中国の漁船が衝突し、漁船の乗組員14人のうち6人が海上保安庁の巡視船によって救助され(8人が行方不明)、中国側からは謝意(日本側が表した協力と人道主義精神を称賛する)が伝えられたとしています。一方、中国のネット上では「中国海警局の公船はどこにいたのか?」「海保による救出は日本の実効支配を証明したもの」等と批判する書き込みも目立ったとのことです。

沖縄というと、選挙の度に基地問題が取り沙汰されます。沖縄ばかりに米軍基地が集中していると報道でも大きく報じられています。果たして実態はどうなのであろうかと調べてみました。
日本の米軍基地の数は130か所、面積にして1024㎢(国土の0.27%、東京都の半分弱 小泉親司著『2013 日本の米軍基地』)あり、沖縄には32施設、230㎢(沖縄全土の10%強)あるので、米軍基地の22%強が沖縄に集まっていると言える。基地数で次に多いのが北海道で18施設、面積でいえば沖縄よりも広い335㎢(北海道全土の0.4%強)を米軍基地が占めています。次いで神奈川16施設(21㎢)、長崎13施設(4.5㎢)、東京・広島が7施設。面積では静岡89㎢、大分56㎢、静岡・宮城46㎢などが上位県になります。47都道府県のうち、27都道県に何らかの米軍基地が存在していて、駐留人数では軍人が4万4850人、軍属や家族を入れると9万4217人(2008年外務省発表)で、半数近くが沖縄に集中しています。駐留人数の多さが際立っている点が、沖縄における米軍基地嫌悪感に繋がっている大きな要素なのだろうと推察できます。

米軍基地というと米軍が駐屯し、米国が使用している基地と思われますが、50か所の米軍基地は自衛隊も使用していて、有事の際に共同作戦を実施できるように日々訓練を行っています。有事に際してはこのインターオペラビリティ(相互運用性)が大変重要になります。米国が日本と共に日本の領土及び極東の安全を守り、そのために日本が米国に基地を提供することが日米安全保障条約で定められています。

しかし、基地があることでの問題や弊害も指摘されていることです。航空機事故、騒音被害、環境問題(実弾演習による自然破壊、有害物質流出)、電波障害、米兵による事件などがその代表的なものでしょう。米兵や軍属による犯罪は取り立てて大きく報道される傾向がありますが、犯罪発生率で言うと、沖縄全体では人口比0.36%、米軍によるものは0.16%(平成21年)。数字の上では米軍の犯罪率は沖縄全体の半分以下ですから、特段、米兵が凶悪で粗暴であるという姿は浮かび上がってはきません。基地内で起こった事件はカウントされていないので、フェアではないという意見もありますが、基地内であれば、気にしないという理屈もあるでしょう。犯罪そのものは憎むべきもので、個々のケースで公正に裁かれていくべきものですが、個別事件を無理くり帰納法的に「米軍憎し」と結論づけるのは論理的ではないように思います。警察庁の平成24年犯罪統計資料によれば、日本における外国人の犯罪は1位:韓国・朝鮮(3994人)、2位:中国(1252人)、3位:ブラジル(410人)、4位:フィリピン(380人)、5位:アメリカ(187人)となっています。

国家(政府)の最大の責任は、国民の生命と自由と財産を守ることにあります。それは国内の凶悪な犯罪や暴力事件から国民を守るだけではありません。言うまでもなく国外からの侵略や拉致・人質事件を未然に防ぎ、万一それらが起きた時には全力を挙げて国民の生命・自由・財産を守ることが国家の使命であります。憲法13条は、「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」と定めています。この規定は個人の人権保障の規定であると同時に、国政を担う政府の責務を定めたものでもあります。国内で暴力団などが地域住民の生命を脅かす事件を起こしたような場合、政府は責任を持って警察官を派遣して、被害を受ける危険のある住民・国民を守る義務があります。それゆえ実効性を担保する上で、警察官は拳銃の携帯・所持を許可されているのです。同様に日本のある地域に外国軍隊が侵入し、そこに住んでいる国民の生命や財産が危険に陥ったような場合、国家は実力をもってその違法な侵略行為から国民の生命を守る義務があります。国の自衛権の根拠はここにあります。米軍基地撤退・自衛隊反対の人たちは警察も不要と言うのでしょうか?

将来、米軍が日本から撤退したとしても、北海道や沖縄の基地はなくならないでしょう。国民の基本的人権が尊重される以上、日本自身で国土を守ることは放棄できないからです。北方も南方も国土を守る上で重要な要所です。日本海側も強化を図らなければならないかもしれません。日本は幸いにして地続きで国境に接していませんから、水際で守る体制が最重要になります。日本の領土の北端(日本の主張は択捉島であるが、ロシアに実効支配されているため、施政下では弁天島)、西端(与那国島)、南端(沖ノ鳥島)、東端(南鳥島)を守るための重点基地配備は至極当然で、国民主権の基本に即しています。それを否定する人は他国のスパイであるとの疑いを持たれても仕方がないでしょう。

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