「良い質問」をする技術

標題は昨年ダイヤモンド社から刊行された粟津恭一郎氏の著書である。著者はエグゼクティブ・コーチングに10年以上携わっていた方で、これまでのコーチング経験を基に「『良い質問』をする技術」を書かれている。大変示唆に富む著作で、一気に読み上げてしまった。
文章のそこかしこに調達バイヤーや管理職にも活用できる点が多々あり、ご紹介したいと思う。
著者は質問を①軽い質問、②良い質問、③悪い質問、④重い質問に四類型する。
①軽い質問は相手が答えたくなるが、気づきはない。②良い質問は答えたくなり、気づきもある。③悪い質問は答えたくもないし、気づきもない。Nagativeな気持ちだけが残り、お互い何も得るものがない最悪の質問である。④重い質問は答えたくはないが、気づきがある。

商談でも大体まずは軽い質問から入る。これは相手との関係を良くする質問で、雑談の領域に入る。相手が答えやすいこと、話していて嬉しくなるようなことを質問して話してもらう。後に展開する「良い質問」や「重い質問」の下地を作る大事な工程である。
さて、ウォームアップしたところで本題に入るわけだが、「良い質問」の最大の特徴は「本質的な」質問であること。商談にあたって事前の下調べもせず、改めて聞くまでのない質問や的外れな質問をしてしまったのでは、先方の意欲が削がれてしまう。あるいは、答えた内容をきちんと理解せずに、次の質問をしてしまうのも建設的な商談の阻害要因になる。
商談の場合、質問内容を事前に準備しておくことは重要なことではあるが、流れを無視して紋切り型に話したり、訊いたりしていくのは取り調べを受けているようで、本音を引き出すのは難しくなる。話の流れや今焦点のあたっているトピックスに繋がる形でタイミング良く有効な質問を繰り出していく必要がある。

どのような質問でもそうだが、5W1Hは必須の項目である。商談ではClosed Question(いわゆるYes/No Question)とOpen Question(時に予想していない回答が来る限定的ではない質問)を組み合わせて合意に導くというテクニックがあるが、Closed QuestionよりはOpen Questionの方が、より多くの情報が得られる。様々な可能性をテーブルに並べ、選択肢を増やし、最終的に最善の道筋を見つけるのを商談と定義すれば、「良い質問」をする技術は調達バイヤーにとっても、部下のみならず他部署との連携強化を責務とする管理職にとっても大変重要なスキルと言える。

指示や命令は上位者が部下に下すものであるが、質問は「質問する人」と「質問される人」の立場が時々に入れ替わり、固定化された上下関係を崩す役割を持つ。ゆえに部下が上司の命令に対して質問をすることは許されるべき行為である。質問を許さない関係は最善への道筋を閉ざすものである。「良い質問」は相手の胸襟を開き、積極的にアイデアや意見を開陳するトリガーになる。筆者は質問が人的関係を対等にする力があるという示唆に富んだ指摘をされている。

一方、「悪い質問」は訊かれた相手がネガティブな気分になってしまう類の質問である。相手との関係に配慮が足りない、質問者の価値観や思い込みの押し付け質問、相手を萎縮させる質問などである。これらは質問された側が殻に閉じこもったり、相手を追い込んでしまい、心を閉ざしてしまうので、回避すべきものである。

「重い質問」を発するのは、文字通り誰しも気が重いものであるが、相手のことを本当に思って訊く場合や、業務遂行上どうしてもしなければならないということは少なくない。その大前提としては、相手との関係が構築されていることが必須要件である。人は誰でも初対面の人に踏み込んだ質問は受けたくない。「なぜ、あなたにそんなことを訊かれなければならないの?」というような質問をいきなりする人と、人は良好な関係を築こうとは思わないものです。基本的に否定形やネガティブな表現「なぜ、御社は~~できないの?」の質問は特殊な意図をもってする以外は避けるべきでしょう。
そしてもう一つ重要なことは、目的を共有することです。「こんな厳しい質問を浴びせかけてくるのは私を思ってのことなんだ」あるいは「お互いの共通の目標達成の為なんだ」と納得できる段階になれば、「重い質問」が有効になってくる段階と言えるでしょう。

調達組織内でもそうですし、対サプライヤーでもそうですが、繰り返しの質問⇔回答のプロセスを経ることで、お互いの「しなければいけないこと」を「したいこと」に変換できれば、形だけの合意形成にならず目標達成の確度はグンと上がります。

筆者はエグゼクティブ・コーチですから、経営者との質問応答で経営者への気づきを促していきます。組織の中でよく使われている「質問」は、その集団の「本質」を表すそうです。トップが「売上はどうなっている?」と社員に繰り返し質問していれば、何よりも売上を重視する企業風土が育まれていく。「顧客は満足しているか?」と繰り返し問えば、顧客志向の会社となっていく。業種・業態・規模がほぼ同じでも、企業風土が違うのはそのためです。
つまり、企業風土を変えたいと思うのであれば、「質問を変える」ことが非常に有効だということを述べておられます。社長が口癖のように言っている質問を変えれば、自然と役員や社員の質問も変わってきて、企業風土が変わるということです。社風なんていうものはない、社長風があるだけだ、という方もおられますが、まさに的を突いたご指摘だと思います。

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