東芝、日産、神鋼、SUBARU

日本のモノづくりを代表する大手企業が不祥事に揺れている。それも立て続けに。
東芝は2015年4月3日、証券取引等監視委員会に届いた内部通報をきっかけに「不適切会計」を発表した。以降定時・臨時合わせて6度目の株主総会が行われた2017年10月24日に初めて「不正会計」という表現に変えて、現経営陣が株主に説明を行った。それまでの外部専門家による調査の公表内容に準じれば、早い段階で「不正会計」は明らかだ。当時の社外取締役、会計監査を担当していた新日本監査法人の責任は免れない。知っていれば大問題、知らないでいたとしても大問題。これまでずっと「不適切会計」と称してきたのは、今でも取り調べ中の3人の歴代社長への忖度であろうか。東証も東芝半導体の売却が片付いていない2017年10月11日に特設注意市場銘柄の指定解除を行った。日本を代表する企業が上場廃止となれば、その影響は市場関係者のみならず、従業員、真面目に経営をしている関連会社、その取引先と広範囲に渡る。そこへの忖度はある程度必要であろう。しかし経営トップへの忖度は全く不要。そういった社会風土・会社風土がこういった問題の再発を防げない最大の理由ではなかろうか。SOX法成立のきっかけになったエンロンのCEOは25年の禁固実刑判決を受けている。

四大監査法人のあずさ監査法人は今年8月、新規案件の受注を1年間停止すると宣言した。この間に過重労働に強いられている現場の作業改善を行うとのことである。将来はAIの普及が予想されるが、複雑化する会計処理や決算月の集中により、品質を高めるべき現場とは裏腹に、契約更新維持のための価格競争に巻き込まれ、投資家からの損害賠償のリスクにも晒される。この悪循環は日本株市場への不信感となって日本経済の土台を揺るがす事態を重く見てのことであろう。

日産にカルロス・ゴーンが乗り込んできたのは1999年6月(当時COO)。半年後に「日産リバイバル・プラン(NRP)」を発表し、3つの達成目標を掲げた。⓵2000年度連結当期利益の黒字化、⓶2002年度連結売上高営業利益率4.5%以上、⓷2002年度末までに自動車事業の連結有利子負債を7000億円以下に削減、この3つのうち1つでも未達成の場合には「経営陣全員が辞任する」とカルロス・ゴーンは公約した。⓵の目標を過去最高の3311億円の利益によってクリアしたゴーンは2001年6月に当然のようにCEOに就任した。その後NRPを2年間で達成したゴーンは、すぐさま次の目標を「日産180」として、⓵2004年度末までにグローバルでの販売台数を100万台増加、⓶連結売上高営業利益率(連結ベース)8%を達成、⓷2004年度末までに自動車事業実質有利子負債0の実現をコミットした。結果は⓵はやや達成が遅れたものの、⓶⓷はコミット通り達成した。カルロス・ゴーンは2017年2月、ルノー・日産に新たにアライアンスとして加わった三菱自動車の全体を率いることになり、日産CEOを西川(さいかわ)氏に譲った。

その日産で無資格の完成検査員が車両の完成検査を行っていたことが9月18日の国土交通省の立ち入り検査で発覚した。本件がさらに大きな問題となったのは、再発防止策を講じたとした後も、日産車体の湘南工場・日産自動車の追浜工場と栃木工場・日産自動車九州の4工場で、無資格者が完成検査を続けていたことである。報道陣からの質問に対して「過去から長く続けてきたことに対し、今日からダメだと言ってもなかなか手を打てないことが(他の業務でも)散見される。習慣化した部分を甘く見てはいけないと身に染みて感じた」と西川社長は語った。ダメだと言われたのに、そして新聞やメディアでも大きく報道されていたにもかかわらず、生産現場及び現場責任者が無視したことは、本件が極めて根が深い問題であることを浮き彫りにした。会社の業績が大きく向上したのは、まぎれもなく経営トップであるゴーンの功績である。しかしながら現場の作業基準や検査基準に則って、決められたことを決められた通りに行うということや、法令を順守するという当たり前のことが、なおざりになっていたことである。国土交通省は全自動車メーカーに体制確認を求めたが、その結果SUBARUにも同様の問題が発覚した。SUBARU(当時富士重工)は1968年から2000年まで日産と業務提携をしており、その影響があったかもしれない。SUBARUのケースは日産より規模は小さいが過去3年間のリコールを発表した。機能上の欠陥が見つかっていないにもかかわらずリコールを行うことは異例であるが、消費者の不信感を考えれば当然のことであろう。

神鋼の性能データ改ざん(強度や寸法)は、日産・SUBARUの無資格者検査より重大な問題である。なぜならば、会社として意図的にウソをついて出荷したということだからである。納期優先で基準に達しない製品を出荷納品したというのは著しく信頼性を損なう行為である。東京商工リサーチは、不正のあった神鋼国内グループ7社(神戸製鋼、コベルコマテリアル銅管、コベルコ科研、日本高周波鋼業、神鋼メタルプロダクツ、神鋼アルミ線材、神鋼鋼線ステンレス)の製品販売先が3143社になると発表した。供給先は航空機メーカーや自動車メーカー、ロケットや車両など多岐に渡る。安全性を最も重要視する業界において、偽装品納入による損害賠償・契約違反による取引停止などの措置が取られることは必至であろう。神鋼解体論もささやかれる。子会社のコベルコマテリアル銅管の秦野工場で生産する一部の銅管製品では、JISで定められた規格値を満たしていないにもかかわらず、データを書き換えてJISマークをつけて供給していた顧客が4社あったということで、JIS認証取り消しとなった。詐欺と同じであるから当然である。私は知らなかったが、神鋼グループはこの10年で3度目のJIS認証取り消しを受けたとのことである。ずさんな管理体制と経営層の責任は免れない。最初の記者会見で見せた神戸製鋼所の川崎会長兼社長の表情や受け答えには、とても重大な事件を起こしてしまったという経営トップの意識を、私は一切感じられなかった。このような人が社長になる会社とその風土に悪寒が走った。神鋼は1999年総会屋への利益供与、2006年にはばい煙データ改ざん、2008年には強度試験データ改ざん、2009年には政治資金規正法違反、昨年も子会社の検査データ改ざん発覚、JIS認証取り消しとなっている。私が神鋼と取引していた30年前は、伝統的な鉄鋼業界に風穴を開けんと進取の精神でアプローチしてきたことを思い出すが、会社とはいつどのように変貌してしまうのだろう。

一連の不正会計・無資格者による検査・性能データ改ざんは、購買担当者にとって受難を意味する。財務データを分析し、工程監査を行い、提出データを信頼し、取引先管理を行ってきた。性善説に立つ日本型オペレーションは取引コストの膨張を防いできた。しかし、それではお人よしすぎると言わざるを得ない現実が見えてしまった。国内メーカーと海外メーカーとの調査や監査には軽重をつけてきた。もはやこれは通用しない。日産やSUBARUの完成車の場合、本来は国が安全性を調べるところを自動車メーカーに代行させている。多くの購買担当者もサプライヤーに自主品質検査の名の下、受入検査を委託している。今や大手有名企業と言えども信用できなくなった。それでも購買担当者が隅の隅までは見通すことはできない。何を頼りにするのか。現場と社長の両方を見極める眼が購買担当者の最後の砦である。現場と決算書と社長の言質との間に違和感があれば、それはどこかに誤魔化しやウソや実態の伴わない美辞麗句が潜んでいる。納得いくまで追究すべきである。

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