かんばん方式などの「トヨタ生産方式(TPS)」を体系化した大野耐一氏や鈴村喜久男氏から直接の薫陶を受けた林南八氏(トヨタ自動車顧問)の話を聞く機会を得た。トヨタ生産方式を語った本は数多あるが、トヨタの強さの神髄は上司が部下を不断の改善に駆り立てる鍛錬道場であると言えるのではないか。
この上司にはいい加減な報告はできないと感じさせること。上司自身も現場確認しているし、自分の頭で考えている、そして部下に質問したり、ヒントを与えたりしている。職場自体がこの鍛錬の場となっていることが最大の強みであると感じた。
以下、私が印象に残った林氏の講演の一部を私自身の感想を含めて箇条書きでご紹介したい。
1)TPSとは、原価低減と人材育成の仕組みに他ならない。自分自身(上司)がチャレンジしていますか? 部下にチャレンジさせていますか? 原価低減を目的として、その過程を人材育成に充てている意識は忘れがち。原価低減目標達成ばかりに目が行きがち。
2)滞留を無くしていくと、課題が出てくる。分岐・段取・不安定な工程・物流において、新たな滞留が発生するので、それを解決していく繰り返し。生産現場はモノの滞留を減らすこと。事務部門は情報の滞留を減らすこと。調達部門は極力近くで調達すること。
3)パワーポイントは作り手が勝手な強調を施すがゆえに問題を却って潜在化させてしまう。聞く側がわかりやすさを求めると、却って問題の本質を覆い隠してしまう恐れがあることを肝に銘じるべき。
4)事務部門でも、設計部門でも遅れ進みを見えるようにする工夫が必要。さもないと、問題が顕在化した時には手遅れになる。
5)販売機会を失っても、儲けそこなうだけ。潰れはしない。足らざるをもって尊しとすべし(徳川家康)が基本。当たらぬ計画は無計画と同義。売れたものだけ作ればいい。
6)5回のなぜには訓練が必要。なぜを5回繰り返した結果「社長が悪い」としても問題解決にはならない。なぜなら社長を変えても、あなたの問題・課題の対策にはまずならないからである。
7)「ああそうか症候群」になるな。物分かりが良すぎるのは、潜在化した問題を素通りさせている恐れがある。それでは問題の本質に切り込む深堀は出来ない。
8)目で見るな、足で見ろ。頭で考えるな、手で考えろ(鈴村語録)。足を使って調べ、手を使って考える。データは現場確認の動機づけであって、データばかり見て発破をかけているだけの上司は督促をしているに過ぎず、フォローをしているとは言えない。情報を使うと左脳が働く。体を使うと右脳が働く。右脳が働くと知恵が出る。右脳と左脳をバランスよく動かすためにも現地現物は大事。
9)現地現物は、現地見学とは違う。現場に行けばいいというものではない。問題意識と課題意識をもって現場現物確認を行うこと。
10)改善後は改善前。改善の報告をするために改善前の写真と改善後の写真を貼っておくと、改善前の写真は破られる。なぜなら、改善後とした姿はもう既に過去のことだから、その改善後の姿をどうしたら改善できるか、すぐに考え始めよとする日々改善の精神。
11)ものづくりも課題の与え方も一個流しが原則。いろいろな企業と関わって感じるのは、これ以上抜けがないというくらいにやるべきことを掲げているが、1年してもほとんど解決、改善していない。ひとつに集中して取り組むことが実は確実な成果につながっているのではないか。
トヨタから盗むべきは、こうした彼らの不断の努力によって作り上げた仕組みではなく、それらの仕組みを生み出してきた土壌そのものなのである。
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