コンサルティングに携わっていると、事業計画やKPI設定なのでよく訊かれる質問がある。「これで漏れはないでしょうか?」「何か抜けていませんか?」、あるいは最近のバズワード(特定の期間や分野で人気となった言葉のことであるが、もっともらしいけれど実際には定義や意味があいまいな用語)に対して、「どう対応したらいいか?」「他社はどうやっていますか?」というような質問を度々受ける。
調達購買部門は社内では守りに入っているケースが多く、社内の様々な「突っ込み」に対して防御する姿勢が強い傾向がある。何か言われても、「このように対応しています」とか、数字を示し「順調に推移しています」とか、説明という名の言い訳を常に準備しておかないと気が休まらないところがある。調達購買の仕事は上手くいっている時は目立たないが、ひとたび問題が発生するとやたら目立つ類の業務で、IT部門と似たようなことろがある。しかし、あれもやります、これもやっています、KPIはこのように50項目管理しています、っていうのが本当の調達事業計画であり、KPI管理であろうか?
歴史のある大企業の調達購買部門ほど、そういった傾向が強いように感じられる。先人が積み上げてきた過去からのKPIを頭ごなしに否定するつもりはないが、調達環境は時々刻々と変わっているし、企業として調達購買部門に期待することも重要度も変わっていく。優先順位の高い新しいことをやらねばならないのだから、これまでやってきたことの中には相対的に劣後順位になる業務はやめていかなければならない。そうしなければ、限りあるResource(人、時間、お金)を本当に重要な案件に割り振ることができず、最重要事項の完遂が困難になる。最重要事項は必ずやり遂げなければならないことであるから、何よりも優先して行われるべきで、忙しくて手が回りませんでした等という言い訳は絶対に許されない。
最近のバズワードのひとつにRPA(Robotic Process Automation)がある。RoboticといってもAI・Robotが登場するわけではなく、人間が行ってきたパソコン業務をソフトウェアで自動化するだけのことである。確かに昼夜問わず働いてくれるので、人手不足の解消には貢献してくれるであろうが、大事なのはその業務の必要性、目的、重要性である。そのスクリーニング・プロセスを経ないRPA化は、結果的にお金の無駄遣いになってしまうこと必然である。かのドラッカーも「 やめるべき活動をやめる。削減する意味もない 」「業績を上げないなら、いかに安くても無駄なコスト」と言っている通り、改善の前に要不要の判断が必須である。
先般、日経新聞に「『当たり前やめた』中学とテレビ」というコラムがありました。中学の当たり前である、宿題の強制、中間テスト、服装チェック、担任制度を全てやめた中学の話が載っていました。宿題に関しては「非効率に尽きる。できる生徒は理解している問題をやらなければならないし、苦手な生徒はできる問題しかやらない。宿題を出すことが目的になっている。形式主義が染みついた教育では社会に出て課題解決なんてできない」と麹町中学の工藤校長は言う。
また、テレビの当たり前とされる番組中のナレーションや音楽をやめ、緊迫感を出す、アポ取りもしない、取材対象が準備する時間を極力減らす。番組制作費用のバランスを捨て、70人体制のディレクターが毎日終電を逃した人を探す「家、ついて行ってイイですか?」のテレビ東京・高橋ディレクターの紹介がされている。 目的を見失った余計な仕事と常識を少し見直すだけで突破口は開けるという切り口はまさに私も同感です。 今や何をやるかよりも何をやらないかがもっと重要な時代だと思います。特に構成員が多い、階層が深い組織ほど、その視点が必要です。なぜならば、課員・部員は慣れ親しんだ業務を行うことで心理的安心感を得ていて、多くの人が業務上の変化を嫌うからです。一か月過ぎれば決まったサラリーが銀行に振り込まれるのですから、会社の危機に無頓着なのも無理からぬことでしょうか。
2015年第一回ホワイト企業(ブラック企業の反対)大賞を受賞した「未来工業」は創業者・山田昭男氏(4年半前に亡くなりました)が劇団運営を経験に立ち上げた優良企業です。企業の経営者になった氏が「徹底した差別化」と「社員を幸福にする」という2大理念を掲げて成長を果たした会社です。販売製品は電設資材や管工機材などの規格品で差別化が難しい製品ですが、「絶対によそと同じ製品は作らない」という信念で 「工務店さんの作業が簡単、速く、上手に、安くできるようになるもの、見た目もいいもの」を開発して顧客の支持を得てきました。
一方、社員には 「現場の連中が一番よく知っているんだから報連相は不要。出張は自分が必要と思えば出掛けていけばいい。残業・営業ノルマの禁止(残業させたら25%増しの賃金を払わなければならなくなる)。全社員が正社員(パート社員や派遣社員を入れているのは、人間をコストと見ている証左)。年間就業時間は1640時間、有給除いて140日の休み(休みはコストが掛からない)。 年功序列、70歳定年、成果主義は禁止(チームワークが育たないから)」と周りからうらやましがられる会社を作ることで、従業員が働いていて励みになり、その会社をより良くしたいと思う心を大切にしている。人間のモチベーションなるものを深く理解し、管理コストの高さを十分肌で感じているマネジメント手法と言えよう。
産業革命以降の大量生産モデルがタイムマネジメントという概念を生んだが、それは皆が同じ時間に同期して働くことにより効率性を高め、生産性を高めることが目的だった。多くの定型業務がAI/Robot化されていく第四次産業革命の幕が開いた今日、各自が常に自分の頭で考え、買う・作る・売るの知恵出しを行う企業風土を醸成することは規模の大小を超えて勝ち残っていく企業の必須条件である。
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