宇宙航空研究開発機構(JAXA)とIHIエアロスペースが開発したイプシロンロケット試験機が2013年9月14日14時、2度の延期を経て無事に空へと飛び立った。当初は8月22日の打ち上げ予定であったが、信号中継装置の誤配線により延期され、同月27日の打ち上げ予定も自律点検装置がロケットの姿勢異常を誤検知したため、打ち上げ19秒前にカウントダウンが中止され、再延期されていた。私は27日のTV中継を見ていたので、管制塔のカウントダウンがZeroになっても噴射も水蒸気も轟音も出ない画面にあっけにとられていた。現場で発射を疑わずに長時間待っていた子供たちの不安な顔がとても印象的だった。
イプシロンロケットは、2006年度に廃止されたM-Vロケットの後継機として2010年から本格的に開発が始まり、全体設計に新しい技術と革新的な打ち上げシステムを採用することで、簡素で安価で即応性が高くコストパフォーマンスに優れたロケットを実現することを目的に開発され、最終的にはM-Vロケットの約3分の2の打ち上げ能力と約3分の1の打ち上げ費用(30億円以下)を実現することが具体的な開発目標だそうである。新たに開発した搭載点検系の機器と簡素な地上設備をネットワークで結んで自律点検機能を持たせることにより、数人とパソコン数台でロケットの打ち上げ前点検や管制を行うことが可能となり、原理的にはインターネットを通じて世界中のどこからでもパソコン1台(もう1台はBack Up)で全ての管制が可能とのことである(セキュリティ上から現実的ではないが)。
正直2回目の失敗をTV画面で見たときはガックリし、日本の技術はどうした?とその瞬間思ったが、新しい挑戦には失敗はつきもので、これから新興国がこぞって通信衛星を上げることになれば日本の技術力がコスト競争力をもって新しい市場を切り開くことになることを大いに期待している。逆にこれまでこういった今後成長が期待される新しい市場に日本の技術力のベクトルが向いてなかったのではないかという印象を持った。今後の商用化の中で今は日本が弱いとされるハッカー対策やセキュリティ対策を施して国際競争力のある、万全なシステムを構築して欲しい。リーダーの森田氏は打ち上げ成功後に「打ち上げるまでに異常対応の手順を100以上考えてきたが、それらがみな無駄になった」と笑顔で語った。
もうひとつの期待のビジネスであるMRJ(Mitsubishi Regional Jet)であるが、そもそもは2002年経済産業省が推進する事業の一つであった新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が提案した計画をベースとして、三菱航空機が独自に進める日本初の小型のジェット旅客機である。日本が独自の旅客機を開発するのはYS-11以来40年ぶりなので、航空機ファンならずとも期待は相当大きいものがあろう。
2008年に三菱航空機は事業化を発表し、9月の時点では2011年に初飛行、2013年に納入を開始する予定だった。1年後の2009年には胴体と主翼の設計変更に伴い初飛行を2012年第2四半期に、初号機納入を2014年第1四半期に見直した(実はJAXAも機体開発に協力している)。そして更に3年半後の2012年4月には、開発並びに製造作業の進捗の遅れから、試験機初飛行を2013年度第3四半期に、量産初号機納入を2015年度半ば~後半に延期になった。そして今年2013年8月22日には装備品について、パートナー各社と協力し、安全性を担保するプロセスを構築することに想定していたよりも時間が必要だとして3回目の開発スケジュール(試験機初飛行予定を2015年第2四半期に、初号機納入予定を2017年第2四半期に)の遅延を発表した。
実に事業化発表後5年間に初号機納入が4年も遅れたということである。素人目には飛行機を飛ばすのとロケットを飛ばすのは技術面から言えば、後者の方が難易度が高いと思うのだがどうだろう?しかし、事業化には多くのパートナーの存在があり、その関係者の一体感の強弱がプロジェクトの成否の大きなファクターになっているのではないかと推測する。企業で言えば共通の志・社内の風通し、社外との関係で言えば信頼関係・責任感。新たな挑戦に対して賛辞は惜しまないが、グローバルな連携が不可欠なプロジェクトが増える中、他山の石となる事例である。
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