前回投稿の「レジ袋有料化」は具体的な施策というミクロの観点から私見を述べたので、今回はマクロな視点で「海洋プラスティックごみ問題」を論じてみたい。
人類がこれまで生産したプラステッィクの総量は80億トンに上るとされる(CLOMA:CLean Ocean Material Alliance会長 澤田道隆花王社長)。毎年3億トンが生産され、そのほとんどが「廃棄ゴミ」として放置されているという状況で、年間生産総量の2.7%にあたる800万トンが世界中の海に毎年投棄されており、累計1.5億トンものプラスティックごみが海中に漂っている、あるいは海底に沈んでいるそうである。そしてこの海洋プラスティックごみの8割は廃棄物インフラの整っていない新興国から流出しているとCLOMAにおいて報告されている。
この海洋プラスティックごみ問題をマクロな視点で捉えると、製品設計⇒生産⇒流通⇒消費者使用⇒リユース⇒リサイクルという一連の流れを環境保護の観点並びに経済的合理性を踏まえて循環軌道に乗せていく必要がある。しかし、一体どこから手を付ければ効果的なのか途方に暮れるほどの大問題である。関りを持つステークホルダーは原料メーカー、容器包装メーカー、消費財メーカー、小売業者、消費者、自治体、リサイクル業者、政府、NGO、投資家など多岐に渡る。こうしたステークホルダーが一枚岩になって事に当たらなければ、この活動は前進しない。さらに、これを世界規模(海は世界に繋がっている)で行うことを考えたら気が遠くなるほどの難題と言わざるを得ない。
これまで非常に便利な素材及び製品として定着したプラスティックを使わないようにしようという試みはなかなかうまくいかないだろうと考えざるをえません。やはり人間は一度手にしてしまった便利なものは強力な代替品が現れない限りなかなか手放せるものではありません。そもそもが「ゴミ問題」なのですから、廃棄の部分に力点を置くべきなのではないかと私は思います。
CLOMAのキーアクションは:1)使用量削減、2)リサイクル率の向上、3)ケミカルリサイクル技術の開発と社会実装、4)生分解性プラスティックの開発と利用、5)紙やセルロース素材の開発と利用の5つあります。それぞれの項目について技術的課題が提起され、主に企業が中心となって解決策を進捗させている段階です。もちろん日本の技術力をもってして、新しい素材開発や処理設備の高度化を行うことは、上述「循環経済」の確立に寄与してくれるものと思いますが、時間軸がかなり中長期に渡るものではないかと思われます。
これら5つのキーアクションに加え、横断テーマとして「分別回収」があります。日本ではそれぞれの自治体ごとにルールが決められて、日本人の多くはその分別ルールや収集日に合わせて真面目に回収プロセスに関わっているものと思います。海洋にプラスティックが廃棄されてしまうところの管理を強化するのが、速効性ある対応だと思います。正直、日本の海岸線からどれほどのプラスティック廃棄がなされているのか気になって調べてみました。前述の年間800万トンの廃棄プラスティックのうち、日本からの廃棄は年間数万トンで0.5%程度の割合になっています。世界的に見ると極少量ですが、やるべきことがないわけではありません。
陸地に漂うゴミは何とか回収する方法はありますが、一度海洋に流れ出たプラスティックごみを回収することは困難です。観光地や海水浴場など人が集まる場での使用制限やポイ捨て防止策を講じる等、効果的な方法はあるだろうと思います。都心部でも自動販売機の横にペットボトルとアルミ缶の回収箱を見かけますが、たまに溢れていることがあります。定型以外のPET容器(流行りのタピオカが残されたまま捨てられていたり)や紙ごみが混ざって廃棄されている回収箱も目にします。CLOMAの報告によると割れガラスなども混入しているそうです。
テロへの警戒が叫ばれて以来、ごみ箱(護美箱)が撤去されているところは少なくありません。特にポイ捨てされて海洋に流出してしまいやすい海岸線領域は強化地域に設定して、回収頻度やパトロールなどを強化することで回収力(海洋への投棄を予防する)を上げることも有効なのではないかと思います。TVでよく政府広報を見かけますが、そういった電波を通じて消費者の啓発をもっと行う方が、一律にレジ袋有料化を義務とする方策よりも効果が大きいのではないかと個人的には思います。ヨーロッパの主だった国の道路には大変大きな回収コンテナが素材ごとに色分けされて設置されています。ドイツの回収システムなどはかなり細かい決まりがありますが、一部には「せっかく分けて集めているのに、最終的には家庭ごみと一緒に燃やされているのでは」といった現行システムに疑問を持っている方も少なからずいるようです。この辺りは日本も自治体の保有設備によって違いがあり、わかりにくいところですし、同じような疑念を持っている方も少なくないでしょう。また、消費者としてはゴミ分別収集しさえすれば、再利用されていると安心して、ゴミを減らすことを忘れてしまうといったモラル・ハザード現象も報告されています。使用量削減とごみ回収・リサイクルを同時に啓発していく必要があります。
冒頭触れたCLOMAの運営体制は:1)普及促進部会、2)技術部会、3)国際連携部会の3つで構成されています。私が注目したのは、3)国際連携部会において、インドネシアと連携して新しい社会システムを構築していこうという試みです。以下はあくまで一研究者により人口や経済規模から2015年に推計した海洋へのプラスティックごみ流出量のデータですが、中国がトップで28%を占め、次いでインドネシアが10%、以下フィリピン、ベトナム、スリランカ等が5%程度と続きます。日本は先に述べたように0.5%程度の構成比で優等生ですから、日本の一般の消費者は自分達はしっかりやっているのに、レジ袋有料化までやらなきゃいけないのかといった心理的抵抗感が強いのだろうと思います。
インドネシアは13000以上の島により構成されていますから、海洋に面している海岸線の長さはカナダ、ノルウェーに次いで世界第3位54000㎞に及びます。日本は第6位で、日本もインドネシアも海洋国家と言えましょう(http://www.ps-lab.com/blog/?s=%E6%B5%B7%E6%B4%8B%E5%9B%BD%E5%AE%B6)。日本で培った工業技術と管理運営システムをインドネシアというプラスティックごみ課題国で実装していけば、循環経済モデルとして他の国々にも輸出できるものになり得ます。インドネシアの現状(2017年)はリサイクル率が10%、回収システムに乗っている管理処分が28%、なんと野焼きが大半を占めており、その他10%弱が放置や流出ということになっています。2025年までに使用量の抑制や代替品の導入に加え、リサイクル対象を22%まで向上させ、管理処分率を62%まで改善する目標を掲げて活動を推進しています。
こうして海洋プラスティックごみ問題をマクロな視点で検証してみると、プラスティックごみ問題の3%弱が海洋プラスティックごみ問題であり、廃プラスティックのうちの2%がレジ袋の占める割合であることを考えると、政府が進める「ワンウェイプラスティックの使用削減」の一施策である「レジ袋有料化の義務化」はどうも心に響きにくい施策と言わざるを得ません。日本で言えば、マイクロプラスティックによる健康への脅威の方が一般の消費者にとって最も懸念されるのではないかと思います。野焼きが大半を占めるインドネシアをの状況を鑑みれば、廃棄物焼却によるダイオキシンなどの有毒ガス発生が最大の懸念材料と言えるかもしれません。一般の消費者を巻き込むムーブメントを推進しようとすれば、そのようなわかりやすい、そして切実な課題を直視してもらえるような啓発の仕方があるのではないでしょうか。重要なことは、対象課題の全てのステークホルダーとBig Pictureを共有した上で、個別の対策に当たらなければ、大きなプロジェクトを前進させることはできません。企業でも課題解決に向かうにあたって「課題の共有」と「肚落ち感」の醸成というステップを軽んじてしまうと、ベクトル(向きと大きさ)が定まりません。いきなり個々の施策をまな板の上にのせて良し悪しを論議し合うことは、生産性からみても効率性からみても無駄であることを肝に銘じておく必要があります。
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