WORKMAN Plus+が今月10日に我が家の近くに開店する。以前はLAWSON STORE 100があって、それなりに重宝はしていたが、工事中の建機の隙間からまだ取付前の横向きのワークマンの看板を見て、私は年甲斐もなく小躍りした。これまでは遠方のワークマンの店へ商品をいくつか買いに行っていたし、話題の商品はネット購入も試みた(残念ながらすぐに売り切れてしまい、未だに欲しい商品を手に入れられないでいる)。そういった状況であったので、たった徒歩300歩(多分100mほど)に憧れの店ができるとなり、開店を心待ちにしているところである。
ワークマンの快進撃はTVでも紹介されているが、店に行くとその安さと品質の良さに思わず買う予定に無かったものまで買ってしまう程の魅力があり、他社のものに比べて圧倒的なコスト・パフォーマンスの良さ、つまり商品力が強みである。
IR情報を一瞥すると、「売上高15か月連続2桁増」「純利益9期連続過去最高益」「客数・客単価前年同期比増」「楽天から2020年2月末で撤退」「PB商品の中国生産割合67%」「製造原価率64%」「店舗数は843、新規出店は全て新業態のワークマンプラス」「1年で株価は2倍」など、業績の絶好調ぶりがうかがえる。5年前に比べて売り上げはほぼ2倍の急成長でそのほとんどがフランチャイズ店(ホワイトFCを目指す)による売上増であり、自己資本比率も80%と抜群の安定度を誇る。
ワークマンはCAINZやSave onと同じベイシアグループに属しており、群馬県伊勢崎市のいせやを母体とした企業グループの一員である。経営目標は「競合先が数年追いつけない断トツの製品づくり」であり、これにより流行に左右されない機能性とデザイン性を備えた定価販売による完売戦略を可能にしている。
表題はワークマンの専務取締役である土屋哲雄氏の講題であり、大変興味深く視聴した。土屋氏は1952年生まれ、東京大学経済学部卒業後、三井物産に入社。海外留学、経営企画室次長、エレクトロニクス製品開発部長、関連会社役員を経て、2012年からワークマン常務取締役、19年6月から現職という経歴で、作業服専業のワークマンの企業改革を推進してきた方である。
作業服小売では断トツの強みを持った存在であったが、市場規模の限界(1000億円)を将来への脅威と認識し、客層拡大のために新業態開拓に向かう決断をした。中期業態変革ビジョンで目を引くのは、「5年で社員年収の100万円ベースアップ」である。これは「データ経営」に向かうために企業文化を変え、業績評価を変える必要があるので、対応しきれない社員に対する前倒し報奨金と位置付けていることである。「データ経営」に向かう覚悟のほどと同時に、社員のモチベーションを上げることによる企業力強化を目指しているものと思う。
土屋氏曰く「データ経営」とは、データに基づき現場で社員全員で考えて改革するという意味だそうである。部長の任用条件は「改革マインド」と「データ活用力」のふたつだけ、企業目標は「客層拡大」のひとつだけという一点突破の徹底ぶりである。
私自身、多くの企業をクライアントとしてきたが、多すぎる目標、多すぎるKPIに現場が振り回されている企業を数多く見てきた。結果、外資に飲み込まれてしまった企業もある。経営トップがその愚かさに気づいて選択と集中を行ってくれれば問題はないが、そうでない場合はミドルマネジメントが経営トップと現場を有効なフィルタリングで仲介し、本当に今必要な目標と改革項目に絞り込む必要がある。限られたリソースを有効に使えなければ、企業競争には勝てない。ミドルマネジメントが現場を守れない企業は見かけだけはやっている風であっても業界における競争力を急速に失ってしまう。
目標に対しては、時間をかけてもよいので必ず実現することとしている。この点も一般企業とは違う点である。目標とは達成すべき目標値や目標レベルと期限を明確にするというのが定石である。そうでなければ、どれほどの人モノ金を投入して目標達成に向かうべきか具体化ができないからである。
ワークマンでは決算発表日を1週間延ばす宣言をした。これはワークマン流働き方改革であろう。1週間決算発表を延ばして誰が損をするのかと考えた時に、誰も浮かんでこない。結果、誰からも文句は来なかった。社員の業務を平準化し、無意味な残業を減らすことによる労働環境改善は今や必須である。土屋氏は、定時になって帰宅する社員が「お先に失礼します」と挨拶することにも違和感を覚える。定時に帰ることは当たり前であり、「失礼」なことではない。堂々と帰宅すればいい。その環境を企業は整えるべきだと主張する。
もうひとつの「しない経営」とは、目標である客層拡大に集中し、そのためのデータ経営に徹し、無駄なことや本業と関係ないことは絶対にしないという宣言である。社内行事はしない、厳格な期限管理はしない、初めから立派な情報システム作ろうとしない(使捨て感覚)(社員がExcelで草の根改善を行う)(需要予測アルゴリズムは社員が考えExcelでシミュレーションを行う)、ノルマを課すなどプレッシャーを与えない、頑張らない(フランチャイズ等、凡人でも経営できるようにする)、仕事を分割しない(個人完結の仕事のやり方にする)、交際費は使わない等の方針が示されている。
現下の目標は「客層拡大」ひとつだが、将来目標は「Amazonに負けない」とのこと。中途半端では100%淘汰されるという危機意識の下、⓵定価でAmazonに負けない(PB商品は定価で負けない、データ経営で在庫を残さない)、⓶配送費でAmazonに負けない(店舗を増やし、店舗受け取りに特化していく。つまり配送費ゼロ。2025年1000店舗を目指す)、⓷販促費をかけない(SNSの評判だけで売り切る)という戦略を掲げている。
近所にできるワークマンの新店舗を定点観測しながら、企業文化の改革が顧客満足や今後の業績に反映されていくのか楽しみである。これからも目の離せない企業のひとつであることに間違いはない。
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